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第60話 ドラゴンアサシン……(驚愕)

 非常事態を告げる火球が上がってすぐに、俺は魔物探知を始めた。

地図上には次々と輝点が浮かび上がってくる。

多くの生徒が避難している様子が確認できたが、魔物側にも一際大きな反応があるのを見つけた。


 おそらくこの輝点が非常事態の原因の魔物であろう。

他の魔物と比べて明らかに輝点が大きく、その上移動スピードが早い。

俺たちも輝点の進行方向を見極めて避難を開始しようと思ったのだが、ここであることに気がついた。


 その輝点の進行方向には、6つの人間の輝点が存在した。

しかもそれらは移動スピードが魔物の輝点よりも遅く、このままでは追いつかれてしまうであろう。

一度見つけてしまった以上見捨てることは出来ない。

どうやら覚悟を決めて救出しにいく必要がありそうだ。


「グレース! みんな! よく聞いてくれ。俺は今からこの追いかけている班の人間を救出に行ってくる。みんなは下に降りて俺が救出に向かう旨を報告してきてくれ」


 俺はそう言って走り出そうとする。

だが走り出そうとした所でグレースに服の裾を掴まれ、危うく転けそうになった。

グレースは俺を見てニッと笑い、そして言った。


「何を言っているのよ。あなたが行くならもちろん私もついていくわ。あなただけに危険を冒させるわけにはいかないもの。みんなは先生に報告をしに戻っておいて」


 グレースがそう言うと、エーリヒたちはコクンと頷いた。

ミルコだけはなにか言いたそうだったが、諦めたのか引き留めようとはしなかった。

俺はグレースの手をひいて、問題の魔物の方に走り出す。





「ハァ、ハァ、もう少しのはずだ」


 俺たちは山の中を疾走していた。

山の中というなれない環境もあって何度も転びそうになったが、何とか踏ん張ってここまで走ってきた。

だが魔物も生徒の班にかなり近づいているようで、一刻も早く魔物を発見しなければならなかった。


「あ、あれだわ!」


 グレースが何かを指差す。

その指の先には、大きな翼竜のようなものが上空を旋回していた。

地面には例の生徒と騎士が座り込んで、観念したような表情をしている。

俺はあの魔物の種類の特定のため、【鑑定】を起動した。


「なるほど、ドラゴンか。翼竜とはまた別の種類の魔物らしい」


 鑑定結果には、Aランクのドラゴンとの結果が出た。

よく見ると、腕が翼とは違うという点や、翼の関節部に爪が付いているなどという点が翼竜とは異なる。

それに何と言ってもでかい。

正確にはわからないが、15M〜ぐらいはあるのではないだろうか。


 グレースと俺は上空を旋回するドラゴンに気づかれないよう、コソコソと力が抜けている逃げ遅れた生徒のもとに近づく。

そして何とか逃げてもらおうと説得を行った。


「ここは俺たちがなんとかするから、早く立って逃げてくれ!」


 だが彼らは逃げようとはしなかった。


「あ……あぁ、ドラゴン……俺は殺されるんだぁ……」


 ずっとこんな調子で現実が見えていないようだ。

逃げてくれればかなり戦闘が楽になったんだが、こうなってしまってはもう彼らを守りながら戦うしかない。

俺とグレースは彼らの前、ドラゴンに見える位置にたった。


 ドラゴンは俺たちを見つけるとすぐに突進してきた。

俺はそれを防御魔法で受け流し、離脱していくドラゴンの腹にめがけてグレースがファイヤーボールを放った。

だがドラゴンの纏う鱗に弾かれてか、攻撃はかき消されてしまった。


 グオォォォォン!


 ドラゴンは唸り声をあげながら再度突入してくる。

今度は口から炎を吐き出したので、俺はあわてて防御魔法を全体に拡大し、攻撃を防いだ。


 防御魔法を展開していれば攻撃を防ぐことは出来るが、一向にドラゴンを倒すことは出来ない。

なんとかして打開策を考えなければ。

そうだ、携行式の地対空ミサイルで迎撃すればようのではないだろうか。


 名案を思いついた俺は、早速実行に移すことにする。

今回使用する携帯式地対空ミサイルはスティンガーだ。

俺はスティンガーを召喚し、両手で構えて攻撃準備に入る。


 俺は自分の周りに張られていた防御魔法を解き、後ろの生徒たちのみを包み込む防御魔法に転換する。

こうしないと発射時のバックブラストで後ろにいる人間は全員ぶっ飛んでいってしまうからね。

俺はスティンガーの目標をドラゴンに設定した。


 再び突入してくるドラゴンは、炎で攻撃すべく大きく口を開く。

そしてドラゴンが炎を放つよりも先に俺はスティンガーを発射した。

すぐに身の回りに防御魔法を展開し、自分たちの安全を確保した。


 発射されたスティンガーはまっすぐにドラゴンの方へと飛んでいく。

ドラゴンも対抗しようと炎を吐こうとするが、すでに遅かった。

大きく開かれた口の中にスティンガーは入り、体内で大爆発を起こした。


 体の内側から大爆発を起こしたドラゴンは、黒い煙をはいた後地上に落下してきた。

地上に落ちてきたドラゴンはピクリとも動くことはなかった。

だがかなりの大爆発によって死体がズタズタにされているかといえばそうではなく、むしろきれいな状態であった。


 放心していた生徒たちも、ドラゴンが落ちた様子を見たら正気に戻ったようだ。

彼らは俺のもとによってき、感謝の気持ちを述べてくれた。


「それにしても立派な死体ね。これを燃やすのはもったいないわ」


 グレースが突然そう言うと、救出した班の生徒たちもそれに賛同した。

こうしてその場にいた8人で死体を引っ張って下まで持っていくことになる。

かなり重たい死体だったが、8人であれば何とかなりそうだ。





 何とか俺たちは集合場所の近くまで死体を運んできた。

だがそこにはメリルと数人の騎士たちがいた。

彼らが討伐をするつもりだったんだろうか。だが残念ながら俺たちがすでに狩ってしまったけれど。


 俺はメリルに声をかけた。

彼女は声を聞いてこっちを振り返ると同時に泣きそうな表情をしていた。

俺とグレースは彼女の腕に抱え込まれ、頭をわしゃわしゃされる。


「良かった、本当に良かった。もしもあなた達に何かあったらと思うと……」


 彼女の顔を見ると、その目は涙に濡れていた。

俺は少し悪いことをしたかなと思い、「ゴメンなさい」と謝る。

無事だったら別にいいのよ、と言って彼女は俺たちを離してくれた。

あやうく彼女のたわわな胸で窒息させられるところだった。


「で、あの大きな死体が今回の騒動の元凶、ドラゴンね」


 メリルとともに俺とグレースは死体の元へと駆け寄る。

その姿は死して尚人々に恐怖を与える威圧感を含んでいた。

……だがめっちゃかっこいい。


「ドラゴン、この山の向こう側のヴェルテンブラント第二王国にのみ生息する幻の魔物。そんなものがなんでこちら側まで来ているのか疑問が残るわね。とりあえずこの死体は持ち帰って検査しましょう」


 一旦死体を放っておいて、助けた班の生徒と一緒に生徒が集合している場所へと帰った。

そこで俺とグレースは大きな拍手で迎えられる。

みんなが俺とグレースを英雄とたたえていた。


「残念ながら、緊急事態があったので魔物狩り大会は急遽今日で終了といたします。魔物の数は学園で測るので絶対になくさないで下さい」


 メリルの宣言に、場が不満の声に包まれる。

だが全員ドラゴンが飛翔している様子は下から見えていたようで、しばらくしたら納得したようだ。

俺も行きに乗ってきた馬車に乗り込んで、学園への帰途についた。


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