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第59話 まったりキャンプ

 俺たちは周囲を警戒しながら森の中を進んでいた。

班員は俺とグレース、エーリヒ、マティアス、ヴェルナーに加えて、護衛のミルコが付いている。

今のところ全く魔物には遭遇しておらず、俺たちは取り敢えず拠点となるところを探すことにした。


「今のところ魔物の反応は無いわね。そっちは?」


「うん、こっちもないよぉー」


 グレースとエーリヒが話し合っている。

魔物の反応がないのは良いことなのだが、一体どうやって探しているのであろうか。

そんな汎用スキルはなかった気がするし、かといって固有スキルだったら2人共が持っているのはおかしい。


「なあグレース、エーリヒ。一体どうやって魔物を探しているんだ? そんなスキルはなかった気がするが」


 俺が尋ねると、エーリヒが答えてくれた。


「これはスキルじゃないよぉ。ただ魔力をこう、何ていうんだろぉ……例えるなら波紋みたいに魔力を広げてぇ、その反射があるかどうかで判断しているよぉ。魔力をもたない木なんかは全く映らないからすごく便利なんだぁ」


 成程、レーダーの魔力版みたいな感じか。

それならば俺にもできるかもしれないな。

早速レーダーの電波放出をイメージして、魔力を放出する。


 魔力を広げるとすぐに頭の中に反応が返ってきた。

5つの反応……これは近くにいる班員たちの反応だ。

だがこれでは使いづらいな、地図みたいなのと連動させられれば良いんだが……


 あるじゃないか、それも便利な地図が。

俺は【世界地図】を起動し、このゲペルス山のみに範囲を絞って表示する。

そこに自分に返ってきている魔力反射のデーターを乗せてみると……


「おぉ、反応のある位置が赤い光点で示されるようになったぞ。実験は成功だ」


 地図上に、俺の得たデーターがしっかりと反映されていた。

これを常時展開していれば、本物のレーダーの用に扱えるな。

欠点は探索範囲が狭いところだが、それは魔力の放出量を増やせば解決するだろう。


 思った通り魔力の放出量を10倍に増やしてみたら、探索範囲はこの山を覆うまでになった。

この大会に参加している全ての生徒、護衛の騎士、そして山に生息する魔物の情報が表示される。

だがこれでは味方と敵の区別がつかないな。

敵味方の識別が出来るようにしてみるか。


 得たデーターをもとに人間のものと魔物のものに分類して、色を変えてみる。

すると人間は青色で、魔物は赤色で表示されるようになった。

これで狩りの効率が劇的に向上するはずだ。

早速前を歩いているグレースたちにこれを見せてみよう。


 俺は前を歩くグレースたちを呼び止め、彼女らに世界地図を見せてみる。

彼女らはそれを見つめ、感心したように頷いていた。


「どうだ? これで狩りの効率が劇的に向上すると思うんだが」


「向上なんてものじゃないわよ! これは革命よ!」

「そうだよぉ。まさかルフレイ君がこんな便利なスキルを持っていたとはねぇ」


 後ろにいたヴェルナーたちも地図を見て驚いていた。

地図によるとこの付近に魔物の反応があるので、俺たちはそこに向かってみることにした。


「ストップ、みんな止まって」


 先行して歩いていたグレースが俺たちを静止させる。

俺は前を見てみると、茂みの先に何か魔物が見えた。

とりあえず【鑑定】にかけてみると、ゴブリン、ランクはEと表示された。


「ふむ、距離は400Mといったところか。俺にやらせてくれないか」


 俺は地図で目標との距離を400Mと算出した。

グレースたちは俺の後ろに下がり、俺は三八式を構えた。

三八式の照門を400Mに設定し、照星と連動させて目標に狙いを付ける。

目標は動いていない、今がチャンスだ。


 俺は銃の引き金を引く。

弾丸はまっすぐ吸い寄せられるようにゴブリンの頭へと飛翔する。


 弾丸は見事に頭に命中し、頭を貫通して飛んでいった。

俺は槓桿を引いて、薬莢を排出した。


「お見事、いつ見ても凄い威力と速度、それに精度ね」


 グレースたちは俺に拍手を送ってくれた。

俺はゴブリンの死体の元へと駆け寄っていき、死亡をちゃんと確認した。

そしてリュックから油を取り出して死体に少しかけ、後から来たグレースがタイミングよく魔法で点火してくれた。


 魔物はどれも種類に限らず、死体は共通してすごく燃えやすいと授業で習った。

何がそうさせているのかは分からないが、そういうものだと思っておこう。

すぐに死体は燃え尽き、後にはきれいに輝く魔石が残った。


 基本的に魔物狩りを生業とする冒険者たちは死体は燃やさず、素材となる部分を切除してギルドに売るのだが、今回は数のカウントのほうが重要なのでこうして魔石を集めるんだそうだ。

俺は丁寧にそれを拾い上げ、誤って爆発させないようそっと回収用の袋の中になおした。


 その後も多くの魔物を狩り、もうすぐお昼時になろうとしていた。

本来ならば狩った魔物の肉などをその場で食べるらしいが、今回俺の班は別の方法で食料を調達することにした。

エーリヒが鞄の中から大きめの鍋を取り出し、ヴェルナーがその中に魔法で水を入れ、グレースがマティアスの拾ってきた落ち葉に点火してお湯を沸かし始める。


 今回食べるのは最初の方俺の主食だった戦闘糧食だ。

お湯の中に人数分の6こを投入し、そのまましばらく待つ。

出来上がるまでに数十分かかるので、その間もグレースとエーリヒが見張り番をして、俺は単独で、ヴェルナーとマティアスがペアで魔物を狩りに行った。


 そろそろ出来上がる頃なので、俺はグレースたちのもとに戻った。

仕留めることが出来たのは15体、あまり多くはなかった。

だがヴェルナーたちが10体と考えるとそこまで悪くはないのではないだろうか。


 採ってきた魔石を1つの袋に集め、早速ご飯の時間としよう。

エーリヒがカバンの中から6つ皿を取り出し、俺はその中に1つずつ戦闘糧食をよそっていく。

全て中身が違うので、みんなが好きなものを選んで食べることが出来るようにした。


 結局グレースがサバのトマト煮、エーリヒがウインナーカレー、ヴェルナーが豚角煮、マティアスが豚しょうが焼き、ミルコがかつおカレー煮、そして俺がかも肉じゃがを食べることになった。

全員暖かくてちゃんとした食事が身にしみているようであった。

とくに米が好評で、何処で採れるのか聞かれるほどであった。


 だが、そんなのほほんとした空気は一瞬で破られることになる。

空に非常事態を表すサインの大きな火球が上がったのだ。

俺はすぐに原因を探るべく魔物探知を始めた。


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