無事にギルドカードを作成した俺は晴れて魔物狩りへの参加資格を得た。
ギルドカードを学校側に提出する機会があったのだが、あのカードをメリルに手渡しすると何だかお宝でも運んでいるかのように至極丁寧に持っていった。
返却時も何故か手袋をつけて恭しく返された。
そんな事もあったわけだが、いよいよ明日が狩りの出発日となっていた。
俺は必要な持ち物を準備して明日に備えて寝る。
明日の夜は寝れないかもしれないから、今日のうちにしっかり寝ておこう。
翌日の朝。
学校前に集合した生徒たちは、各自班に分かれて目的地までの幌馬車に乗り込んでいた。
俺も班のメンバーと一緒に幌馬車に乗り込み、目的地である『ゲペルス山』に向かって移動を始める。
幌馬車の横には何時ぞやの騎士団長等騎士団が護衛についていた。
最初はグレースがいるからかと思ったが、それには関係なく毎年騎士団が学園の馬車の護衛を請け負っているらしい。
だが実際今回はそれよりも厳重だとか何とか……
いくつもの町や村を越え、俺たちは目的地に到着した。
すでに空は薄暗くなってきており、早速今から班ごとに分かれてテントの準備をするようだ。
その真ん中には教師陣が大きな焚き火を用意しており、昔林間学校に行ったときに行ったキャンプファイヤーを思い出す。
俺の班は他の班と比べてもテントを早く用意し終えた。
後は中に寝袋を敷き詰めて眠るだけだと思ったが、ここで1つ問題が生じる。
ずばり『グレース何処で寝るんだよ問題』だ。
この班の中で唯一女の彼女を男4人と一緒に寝させるわけにはいかない。
「なぁ、そういえばグレースは何処で寝るんだ?」
俺が問いかけると、彼女はサラッと答えた。
「何処って……もちろんテントの中でしょう」
彼女は何もわかった無さそうだ。
それが一体どんな影響を及ぼすのかを。
俺は彼女を止めようと続けて説得する。
「いいか、よく聞けグレース。この班はお前以外全員男子だ。もしものことがあったらどうするつもりだ」
俺の言葉をしばらく考えたグレースは、ようやく理解したのか顔を手で覆った。
顔がゆでダコみたいに真っ赤になっている。
しばらくしてから落ち着いた彼女は、顔を上げて俺にこんなことを言いやがった。
「じゃあ私はテントの端で寝るから、あなたが私の隣で寝れば良いんじゃないかしら」
グレースは自分で言いながら自分で照れていた。
なんで俺が隣で寝るのは良いのだろうか。
彼女に問うと、恐ろしい答えが帰ってきた。
「だって最近オリビアと一緒に寝ているのでしょう? あの子すごい嬉しそうに私に報告してくるのよね。だから私も一緒に寝てもらおうかなーって。 ソレニオリビアダケズルイシ」
オリビア〜〜!
お前は一体なんてことを報告しているんだ。
俺がお前になにかしているととらえられたらどうしてくれるんだ。
あと、グレースがなにかボソッと言った気がしたが上手く聞き取れなかった。
「ほ、ほら、明日も早いからさっさと寝るわよ//」
グレースは俺の手を引っ張ってテント内に連れ込む。
彼女がテントの端の寝袋にくるまり、俺はその横の寝袋に入った。
幌馬車で移動していた疲れもあるのか、俺は気絶するように寝入ってしまった。
◇
翌朝、俺は体の上に感じる重みで目が覚めた。
……一体何が上に乗っかっているのだろうか、俺は寝ぼけ眼をこすって上を見る。
「zz……zzzz」
なんと上に乗っかっていたのは外でもないグレースであった。
彼女は昨日俺の隣の寝袋に入って寝ていたはずだが……
俺が横を見ると、もぬけの殻になった寝袋がそこにはあった。
そういえばオリビアが前にグレースの私生活はポンコツだと言っていたが、まさに今の光景がそれを体現している。
俺は上で幸せそうに寝ている彼女を起こさないように起き上がろうとしたが、残念ながら胴体をガッチリとホールドされていたので全然身動きが取れなかった。
仕方がないので、俺はグレースを起こすことにした。
腕は動くので、試しに俺は彼女のほっぺたをツンツンとつつく。
だが彼女は俺の指を掴み、ありえないことに口にふくもうとした。
舐められてはたまらないので、俺は急いで手を引っ込める。
今度は肩を掴んでユサユサと揺らした。
弱くやっても全く反応を示さなかったので、段々と揺らし方を強くしていくと彼女はようやく反応を示した。
そしてさらに揺らしていると、ようやく彼女は目を覚ました。
「う〜〜ん……あらルフレイ、おはよう……」
グレースは目をこすってむっくりと起き上がる。
俺も起き上がってテントの外に出ようとすると、彼女は手を差し出してきた。
「ん」
「ん」ってなんだよ「ん」って。
俺がとりあえず手を差し出すと、彼女は手を握り返してきた。
離してもらえそうになかったので、そのまま手を引っ張ってテントの外に出た。
「お、ようやく起きたか」
「朝からお熱いですね〜」
「なんだかぁ、夫婦みたいだねぇ」
外に出ると、先に起きていた3人に思いっきり冷やかしを食らう。
俺があわててグレースの手を離そうと手をブンブン振ると、彼女はやっと完全に目が覚めたようだ。
「はっ! 私ったら一体何を」
グレースは顔を真っ赤にしてうずくまった。
その様子を見た他の3人は全員大笑いしていた。
俺はどう反応すれば良いのか分からなかったので、とりあえず笑っておく。
「ちょっと! 笑わないでよもぉー」
一通り笑い終えた後で、俺たちは朝の集合のために教師のテントの周りに集まった。
全員が揃ったことを確認した後、メリルが挨拶をする。
「いよいよ今日から魔物狩り大会が始まります。安全に十分注意して取り組んで下さい。もしも何かがあった場合はすぐに同行する騎士団の方たちに申し出て下さい。それと、重大なトラブルが起こった場合は空に大きな火球を打ち上げますので、その時はすぐに山を降りてきて下さい」
代表してミルコが一礼し、俺たちは拍手する。
その後は諸注意が説明され、後は山の中に入る段階になった。
俺は用意を詰めたリュックサックと三八式を肩に乗せ、いつでも入山できる準備を整える。
最初の班から順番に入山が始まった。
今回はAクラスと合同なので、Sクラスの俺たちはあとの方だ。
各人の装備を見てみると、剣や杖、槍に弓など様々な種類の武器を装備していた。
いよいよ俺たちの班の入山が始まった。
山の入口の門をくぐり、俺は山の中に入る。
山の中は木や雑草が鬱蒼と茂っており、全体的に薄暗かった。
俺たちは魔物に警戒しながら森の中を進んでいく。
今日から2日に渡る魔物狩りが始まった。