「さて、話を聞こうか」
ギルド長室のソファーに腰掛けたギルド長が口を開く。
俺は彼の前に座って今日あったことをすべて話すことにした。
「まず俺たちはダンジョン内に入ったわけだが、そこは俺がよく知っている構造だった。そしてそこでエレベーターを見つけたのでそのまま最下層まで降りたというわけだ」
俺が話し始めるといきなりギルド長が「ちょっと待った」と俺の言葉を止めた。
「なんでダンジョン内の構造を知っているのかは置いておくとしよう。だがエレベーターとは何だ?」
そうか、この世界の人はエレベーターを知らないものな。
まずはそこの説明をする必要がありそうだ。
「エレベーターというのは簡単に言えば人を上下の階に運んでくれる箱だ。それに乗って俺たちは下に降りたんだ」
俺は手でエレベーターが上下する様子を表しながら話す。
彼と話を聞いていたグレースも手を上下させ、エレベーターを思い浮かべる。
理解できたのかはわからないが「続きをどうぞ」と言われたので俺は話を続けた。
「最下層で俺たちは未知のロボット、つまりあの残骸の元の姿と戦闘になり、俺たちが見事に勝利を収め、戦利品としてあの量のお宝を持って帰ってきたというわけだ」
「最下層での戦闘、そこのお宝……か。これは『竜討つ剣』にも確認が必要だな」
ギルド長は頭を抑えながらため息を付いて言う。
話を横できいいていたグレースが今度は俺に質問してきた。
「戦闘があったのはわかったわ。で、そのろぼっと?とやらはどれぐらい強かったのよ」
「そうだなぁ、まずは剣を使って襲ってきたからそれを防御魔法を使って防いだんだ。その後俺が反撃しようと銃を撃ったわけなんだが、それの前部装甲に阻まれてしまった」
グレースはこの前に銃の射撃を見て、その威力をよく知っている。
だからこそ彼女には衝撃だったのであろう。
彼女は痛そうに頭を抑えた。
「だから俺は別の銃を用いてロボットを撃破したってわけだ」
成程ね、とグレースは納得したようなしていないような微妙な反応を見せる。
あ、あと言わなければいけないことがあったな。
「そういえば、ロボットを撃破したときに【ダンジョンマスター・不落宮】というスキルを手に入れたんだ。どうやら不落宮の全権限を行使可能にできるスキルらしい」
グレースとギルド長は開いた口が塞がっていなかった。
もうこの時間だけで彼女たちは何度驚いているのだろうか。
「そんなスキルなど聞いたことがないぞ。ステータスを見せてくれないか?」
ギルド長は俺にステータスを見せるよう要求してきた。
俺は彼の求めに応じてステータスを見せる。
ステータス板では何も見えなかったので問題はないだろうと思った。
だが実際は問題大有りだった。
自分から展開したステータスは他人にも見えてしまうらしい。
「何なんだこのステータスは……」
「ルフレイ、あなたって本当に人間なの? というかスキル以上に称号が気になるわよ。何よ【転生者】って」
あはは……
俺は笑ってごまかすしかなかった。
これ以上何を言っても無駄であると思ったのだ。
その後も彼女らは執拗に追撃を駆けてきたが、俺は笑って何とかかわした。
1時間程すると彼女らもようやく諦めたようで、これ以上は追求しないという言質を取った。
なんとかなって良かった……
これからは十分気をつけないと。
「じゃあもう今日は遅いので帰ってもらっても大丈夫です。後は『竜討つ剣』に聞き取りするなどしてこちらで整理します」
俺の称号欄にあった【イレーネ帝国皇帝】という文字を見た瞬間からギルド長の態度が変わった。
別に元のままでいいといったが彼は絶対に変えてくれないそうだ。
俺も諦めてこのままで行くことにした。
そういえばここに来たのはギルドに登録するためだったな。
俺がギルド長に登録が可能なのか確認すると、2つ返事でオッケーが出た。
ギルドカードが出来たら手紙を受けとったらカードを受取に来ることを約束し、俺はギルドを出た。
グレースといっしょにトラックに乗って俺は王城へと帰る。
彼女を乗せてきた馬車は先に城に返していたようで、俺とグレースはトラックに乗って帰ることにした。
助手席にぎゅうぎゅう詰めになりながらもなんとか帰ることは出来た。
城の自分用の部屋に戻った俺はそのままベッドにダイブし、そのまま寝てしまった。
後でオリビアが俺をちゃんと毛布に入れ、且つ彼女も一緒にベッドにいつも通り入ってきたのだが、それに俺は全く気が付かなかった。
◇
帰ってきてから2日後の放課後。
俺はグレースとともに再びギルドを訪れていた。
昨日カードの用意ができたことと、『竜討つ剣』のメンバーが俺に用事があるとの手紙が届いていたので早速向かうことにした。
ギルド内はこの前と同じく混雑しており、俺たちはなんとか受付カウンターに滑り込んだ。
要件を伝えると職員は俺たちをギルド長室へと案内した。
俺が部屋のドアを開けると、そこにはギルド長と『竜討つ剣』のメンバーがいた。
「おお、これらましたか。ささ、どうぞお座り下さい」
ギルド長が俺たちをソファーに座るよう促す。
俺とグレースがソファーに腰掛けると、ギルド長は黒いお盆を持ってきた。
それを前の机に置くと、上にカードが1枚乗っているのが見えた。
「こちらがギルドカードになります。『竜討つ剣』からの要請も受けて、ルフレイ様には新たに創設させてもらった特Sランクを授けております」
俺はカードを手にとって眺める。
カード自体はかなり重量感があり、質感と見た目からして純金が使われているようだ。
しっかりと『特S』と俺の名前が刻印されており、正式に登録が完了した。
「まだルフレイとお宝の取り分を決めていなかったからな。今からそれを決めようと思う」
俺が眺めていると、マックスがそう切り出した。
俺は別に良かったのだが、彼が俺に持ってきたお宝の一覧を見せてきたので、とりあえずそれに目を通してみることにした。
どれどれ、目ぼしいものは無いかなぁ……
一覧には全てのお宝の詳細が事細かに記されており非常にわかりやすかった。
機能や売った場合の価格なども記されており、俺は上から1つずつ目を通していく。
ただのきれいな鏡に閉じたら勝手にロックされる箱、電動マッサージ機……なんでこんな物があるんだよ!
変なものばかりだったが、使えそうなものが無いとも限らないので俺は読み進めていく。
だが何処まで言っても出てくるものはガラクタだらけ。
しかしどれも買取金額はかなりの高額がついているから驚きだ。
さらに読み進めていくと、1つ有用そうなものを見つけた。
それは魔石を利用した長距離通信用の魔道具らしい。
備考欄には通信用魔法珠の劣化版と記され、買取価格も安めに設定されていたが、俺はこれに可能性を見出していた。
通信用魔法珠は持っているので何度もじっくりとその仕組みを理解しようとしたが、俺にはどうやっても仕組みを理解できそうになかった。
だがこの魔道具ならば再現することが可能かもしれない。
工廠の連中にはこれに加えて蒸気タービンの開発とロボットの再現と苦労を強いることになるが、これはやがて非常に重要な技術になるだろう。
「じゃあこの長距離通信魔道具をもらっても良いか?」
俺が聞くと、マックスは快く了承してくれた。
他にはいらないかと聞かれたが、俺は丁重に断った。
話し合いも終了し、俺は魔道具とギルドカードを持ってグレースといっしょに王城へと帰る。