俺は今、馬車の中にいた。
前には『竜討つ剣』のメンバーが座っている。
俺たちが今目指しているのは、『不落宮』と呼ばれるダンジョンだ。
ここで実際に戦ってみてギルドに入会するかを決めるらしい。
『不落宮』は迷路型のダンジョンらしい。
その第3階層まで進めれば入会可とみなされる。
本来はもっと簡単らしいが、いきなりSランクということもあって難しめに設定されたようだ。
そして『不落宮』は未だに攻略されていないダンジョンらしい。
この国には『不落宮』以外にもいくつかダンジョンがあるとのことだが、それらも未攻略とのことだ。
本当にそんなところに行って良いのだろうか。
「そういえばルフレイはどんな武器を使うんだ?」
俺に話しかけてきたのは、『竜討つ剣』リーダーのマックス。
最初は俺に距離を取っていた彼らであったが、俺がこの前のこと関係なく普通にしてくれと頼んだら俺に普通に接してくれるようになった。
どんな武器を使うかだが、今回も俺は三八式で行こうと思う。
取り回しが悪いかとも思ったが、そういう時は別の武器に途中で変えれば良い。
ちなみに今回は銃の先端に銃剣をつけるから、接近戦にもある程度は耐えれるようにはなっている。
「これだ。銃という武器だが……知らないわな」
俺は三八式を取り出す。
同時に銃剣も取り出して、先端部分に取り付けた。
彼らは何処からともなく出てきた武器に驚いているようだ。
「いったいそれは何処から出したんだ、それがルフレイのスキルなのか? だがそれよりもその木と鉄の棒で戦えるのか?」
「あぁ、これがあれば300M先からでもイチコロさ」
そう言うと、彼らは納得したのか考えるのを諦めたのかそれ以上聞いてくることもなかった。
そのまま黙った時間が続いていると、御者の席にいたメンバーの1人、ゲオルグが前から顔を出して言った。
「おーいルフレイ、道の真ん中で寝ているオークがいるぞ。腕鳴らしに退治しておくれよ」
彼の言葉を聞き、俺は馬車の外に出る。
彼の言った通り道の真ん中にはオークが横になって寝ていた。
寝込みを襲うのもかわいそうだが、俺は躊躇なく銃を構えた。
表尺板を動かして目標に狙いを付け、引き金に手をかける。
引き金を引くと同時に弾が発射され、見事オークの頭を撃ち抜いた。
オークは殺されたことにも気づいていないかもしれない。
オークを討伐し終えたのを見て『竜討つ剣』のメンバーも降りてくる。
メンバーの内2人はそのままオークの死骸の方に向かい、慣れた手つきでオークを解体し始めた。
残ったマックスとゲオルグが俺に話しかけてくる。
「はっはっは! なんて武器だよ!」
「俺も1つ欲しいものだ。なぁ、譲ってくれないか?」
絶対に譲りません。
彼らに囲まれている間に、オークの解体に行っていた2人は戻ってきた。
結構でかい肉塊だったが、そんな短時間に解体するとは……さすがプロといったところか。
「アントン、ヤコブ、どうもありがとう。そうだ! 日も落ちてきたし、今日はここで野宿と行くか!」
マックスの案に「賛成!」と他のメンバーが言う。
今日はここで寝泊まりして、明日ダンジョンに挑戦しよう。
先ほど手に入れたオーク肉を腹いっぱい食べ、その日は俺が周りに防御魔法を展開して眠りについた。
◇
翌朝、早朝から移動していた俺たちは今ダンジョンの前に来ていた。
朝、メンバーのアントンがトイレに行こうとしたときに俺の防御魔法に阻まれて外に出れず、危うく漏らしそうになったこと以外は特に問題のない快適な旅であった。
そして今、ダンジョンの入口の扉を開こうとしていた。
俺は意を決して扉を押し開ける。
扉を開けた先は階段があり、どんどん下へと下っていくのが見えた。
俺はマックスたちを連れて下へ通りていく。
まずは第1階層のフロアへと降り立った俺は、魔物の襲来に備えて気を引き締める。
早速魔物が出てきた。
見た目はゼリー状の魔物。
いわゆるスライムというやつであろう。
俺は早速銃を構えて発射した。
だがなんということであろうか。
銃弾はスライムを貫通し、床に跳ね返った。
そしてスライムは何事もなかったかのようにゆっくりと近づいてくる。
俺がどうしようか迷っていると、マックスがアドバイスをくれた。
「あー、スライムに飛び道具系は聞かないからなぁ。剣のようなもので刺して中身をかき回すと簡単に倒せるぞ」
マックスの助言に従い、銃剣で突き刺す。
銃剣で中身をかき混ぜると、いとも簡単に倒すことが出来た。
何処が何の部位なのか見えないからわからないが、よく考えるとこれって内蔵をかき回して……
そういうことを考えるのはよそう。
マックスは俺の倒したスライムの亡骸に火を点けて燃やした。
その後も第1階層を巡ったが、スライムしか湧いていなかった。
そしてこの階層を巡っているときにあることに気がつく。
それはこの階層の中身がマンションなどのようにいくつもの部屋に分けられ、それらの部屋には扉がついているということであった。
これは単なる偶然なのであろうか。
それとも何か理由があってこのような事になっているのであろうか。
俺はこの階層の全体図を知るため、【世界地図】を起動した。
「……やはりそうなのだろうか」
マップに表示されたのは、明らかにマンションのような集合住宅の見取り図であった。
ただ地球のものと違うのは、かなり階層の面積が広いということである。
地図を眺めていると、マックスが近づいてきた。
「何を見て……ってこれはまさか! この階層の見取り図か!」
その言葉に、他のメンバーも集まってくる。
全員がその地図を見て、その正確さに驚いているようだった。
さらに俺が地図を拡大縮小、3D化してみせるとさらに驚いていた。
そんな彼らを横目に、俺は下の階へと降りる階段を探す。
だが俺はそこにとあるとんでもないものを見つけた。
――表示を見る限り、エレベーターである。
こんな技術の未発達な世界になぜこんな代物が存在しているのか。
もしやこの世界には高度に発達した文明があったのであろうか。
もしあったとしたらその技術は何処に消え、なぜ今の状態まで退化してしまったのであろうか。
答えは分からない。
稼働するかはわからないが、俺はそこに向かってみることにした。
もしも動けば、最下層まで一気に降下することができる。
道中に湧くスライムを倒しながら俺たちはエレベーターに向かう。
エレベーターホールにたどり着くと、そこには地球のものと酷似したエレベーターの扉、そしてボタンが整然と並んでいた。
俺が躊躇いもなく”下る”ボタンをおそうとすると、マックスが止めてきた。
「まてまて、そんなダンジョンの得体のしれないものを無闇に触るな」
「大丈夫だマックス。俺はこの”機械”の扱いはよく知っている」
機械? と首を傾げるマックスを尻目に、俺はボタンを押す。
あっ、とマックスが止めようとした時には既にエレベーターは稼働していた。
よかった、取り敢えずは動いてくれたようだ。
やがてエレベーターはこの階に止まり、扉が開く。
その様子を見たマックスたちはひどく怯えていた。
俺がエレベーターに乗り込むが、彼らは乗ろうとしなかった。
「大丈夫だ、何も無いよ。これは俺たちを下の階へと連れて行ってくれるんだ」
「本当か?」と聞くマックス。
大丈夫だともう一度いうとようやく納得したのか、恐る恐る全員がエレベーターに乗り込む。
そして俺は行き先を決まるためにボタンを押した。
「えぇっと、下に降りるんだから……1階でいいかな」
俺は1階のボタンを押す。
そして扉を閉じようと押すと、このエレベーターのおかしなところをさらに見つけた。
「”OPEN”に”CLOSE”……なぜアルファベットが書かれている。それによく考えたら階数表示もアラビア数字だ。どちらもこの世界では使われていないはず……」
そんな事を考える俺と『竜討つ剣』を乗せて、エレベーターは下へ降りていく。