夏休み後初の授業は何事もなく終わり、放課後になった。
昼食のときにグレースに冒険者カードを持っていないことを言うと、今日取りに行こうと言われた。
冒険者カードの発行には試験があるらしく、その試験のために明日は休むことをメリルに伝えて学校を出た。
「はい、これ」
グレースから手紙を渡された。
手紙には『ギルドマスターへ』と書かれてあるだけで、他には何も書かれていない。
手紙は赤い封蝋で厳重に閉じられていた。
「これを受付の職員に渡すと良いわ。面倒な手続きをしなくてすむわよ」
それはありがたいな。
中には何が書いてあるのか知らないが、楽になるに越したことはない。
俺はこの世界での戸籍やら何やらはなんにも持っていないからな。
馬車が止まり、冒険者ギルドの前についたようだ。
「あ、流石に私はついていかないで王城に帰っておくから。明日の試験、頑張ってね」
分かった、行ってくると言って俺は馬車を降りる。
俺は冒険者ギルドの扉を開け、建物の中へと入っていく。
冒険者ギルドの中は大勢の人でごった返していた。
それぞれが鎧を身にまとっていたり、大きな剣や槍を持っていたりしてまさに冒険者ギルドというイメージにぴったりの場所であった。
俺は申請のために受付カウンターを探す。
少し彷徨っていると、受付と書かれたプレートが掲げられた一角を発見した。
そしてそこには新規受付と依頼報告受付があり、俺は新規の方へと行った。
依頼報告の方には多くの人が並んでいたが、新規には人が1人もいなかったので俺の番がすぐにまわってくる。
俺がカウンターの前に並ぼうとすると、隣の列からいきなり笑い声が聞こえてきた。
何が会ったのかと横を見ると、屈強な男たちが俺の方を指さしながら腹を抱えて笑っていた。
「あの年でww新規受付ってww笑わせるぜwwww」
あんなタイプの人間は無視するに限る。
俺は無視を決めこんで受付の人に話しかけた。
受付の職員は苦笑いしながら俺に紙を差し出してきた。
「ようこそ冒険者ギルドへ。まずはこの紙に必要事項を記入して下さい」
必要事項の記入……はしないでいいと言っていたな。
俺は代わりに彼にグレースからの手紙を渡した。
「受付のときにこれを見せてくれと言われていたんだけれど……」
「承知致しました、拝見いたしますね……ってこれは王家の封蝋! す、すぐにギルドマスターを呼んでくるので少々お待ち下さい!」
彼はそういうとダッシュで走り出す。
俺は急なことに呆然としていたが、よくよく考えたら新規受付の人間が王家の封蝋のついた手紙を持っていたら変か。
彼がギルドマスターとやらを連れてくるまで少し待っておこう。
すると職員がいなくなるときを待ったかのように横の男たちがニヤニヤしながら近づいてきた。
武器も持っているし、相手は複数人だ。
これは面倒な連中に絡まれたな……
「おいお前、気に入らねーんだよ。一発殴らせろ」
こういう輩は何処の世界にもいるんだな。
俺は仕方なく護衛用にテーザー銃を取り出す。
これならばどんな大男でも激痛に耐えることは出来ないだろう。
「おい、ちゃんと返事をしろや!」
大男が思いっきり拳を俺に向かって振り下ろす。
すかさず俺はその男の体にテーザー銃をぶち込んだ。
先端のプロープが刺さると同時に電流が男の体に流れ、男は痙攣し始めた。
「大丈夫ですか!」
騒ぎを聞きつけて、先ほどの職員があわてて戻ってきた。
だが戻ってきたら、床に騒いでいた男が倒れているのを見て目を丸くしている。
一緒に騒いでいた男たちも怖気ついており、彼は何が起こったのかわかっていないようだ。
「おい! 何をしているんだ!」
声のする方を見ると、階段から降りてくる厳ついおじさんがいた。
この人がギルドマスターであろうか。
彼はそのまま男たちの元へ行き、思いっきり怒鳴った。
「お前たち! 新人をいびるとは何事だ!」
彼の怒鳴り声に、男たちはすっかりビビっている。
そしてさっきとはうって変わった態度でこういった。
「す、すんません! もう絶対にしませんから―!」
彼らは涙目でそう言い、気絶している男を抱えて逃げるようにギルドを出て行った。
やれやれとした様子で、厳つい男は俺に話しかけてき。
「すまなかったな坊主。とりあえず俺の部屋にこいや。そこでゆっくり話をしよう」
彼は俺を手招きし、階段を上がっていく。
俺もそれに付いて階段を上がる。
そして彼は1つの部屋に入り、後から来た俺も入るよう促した。
中に入り、彼は書斎机の角に腰かける。
「すまんかったな。あぁいうのもおるが気にせんといてくれや」
俺は彼の言葉にうなずく。
満足そうにうなずいた彼は、早速話を持ち出してきた。
「お前さんの持ってきた手紙を読んだが、女王様からの招待状を持ってくるとはいったい何者なんだ。それにSランクに推薦するって書いてあるし、色々訳が分かんねえよ」
彼はそう言って頭をかいた。
そして「とりあえず座りな」といってソファーを指さした。
俺はソファーに腰掛け、彼も対面のソファーの腰かける。
「自己紹介が遅れたが、俺はシュタインだ。ここのギルドでギルド長をやっている」
「俺はルフレイ=フォン=チェスターです。以後よろしくお願いします」
彼が手を差し出してきたので、俺は彼と握手する。
そして彼は早速本題に入った。
「で、Sランクへの推薦理由だが、前国王と前王太子の討伐の実績……なんじゃこりゃ」
おいグレース! なんてものを描いているんだ!
これじゃあまるで俺が前国王たちを暗殺したみたいじゃないか。
俺はただ王城を爆撃するよう命令しただけだぞ。
このままではマズイな。
グレースが勝手にSランクに推薦してくれたようだが、別に何ランクでもいいからギルドカードは絶対に手に入れなければならない。
そうじゃないと俺が魔物狩りにいけなくなってしまう。
だが俺の心配とは裏腹に、帰ってきたのは意外な答えだった。
「まぁ良い。理由がさっぱりだが女王様の頼みだ、無下には出来ねぇ。とりあえず試験を受けてみて、その結果で決めるようにしようじゃないか」
よし!
実戦となればどんと来い!
島で鍛えた射撃スキルをお見せいたそう。
「試験には原則として先輩冒険者が付くんだが、誰か指名したい人はいるか? 受けてくれるかは本人が決めることだからどうとも言えないが……」
俺の知っている冒険者……いないな。
いや、1組いるじゃないか!
それもSランクを名乗っているパーティーが!
「じゃあ『竜討つ剣』を呼んで下さい」
「『竜討つ剣』? そんな超有名パーティーが助けてくれるわけがないだろう。一応今はいるにはいるが」
あいつらそんな有名人だったのか。
だが良いことに、俺はあいつらを助けてやった恩がある。
それを返してもらおう。
「大丈夫ですよ。俺の名前と『泳ぎの練習はしたか?』という伝言を伝えて下さい」
「分かった、試しに呼んでくるよ。まぁ十中八九無理だと思うが」
そう言ってギルドマスターは出ていった。
しばらく待っていると、階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
ガチャッとドアが空き、あわてた様子で『竜討つ剣』のメンバーが入ってきた。
「お久しぶりです! 我々『竜討つ剣』、謹んで試験のお供をいたします!」
メンバーの一人がそう言い、残りのメンバーも直立不動で動かなくなった。
その様子を見たギルドマスターはこう呟いた。
「いったいどういうこっちゃ」