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第51話 不明騎ノ識別ヲセヨ

 不明機の対応に向かっていた戦闘機隊が帰ってきた。

1機ずつアングルド・デッキへと進入し、着艦フックにアレスティング・ワイヤーを引っ掛ける。

機体は急に減速し、やがて停止した。


「司令官、只今戻りました」


 俺は先程大和からヘリを使ってニミッツへと移ってきていた。

大和の後部甲板にMH−60Rシーホークなんか載るのかとハラハラしていたが、案外すんなりと着艦出来た。

俺は出てきた戦闘機の乗組員からカメラを受け取る。


「ウーン、これは一体なんだろうか? ドラゴン? それとも翼竜?」


 写真に写っている奇妙なものを見、俺は頭を捻る。

おそらくはそういう類の生物であろう。

コカトリスがいるんだからそれらがいてもおかしくはない。

今は便宜上翼竜と呼ぶことにしよう。


 そして、写真からはもう1つの事実が確認できた。

それは翼竜の上に人が乗っているということであった。

人が操縦している、いわゆる竜騎兵とかいうやつだろう。


 問題なのは、これらの翼竜が何処所属であるかということだ。

俺はこれらのことについては全くの無知なので、グレースらこの世界の住民に聞くしか無い。

やれやれ、夏休みだと言うのにもう王国に戻らなくてはならないようだ。


 ちょうど合流した比叡とともに、再度陣形を組み直す。

陣形を組み直したうえで、艦隊はフォアフェルシュタットを目指して航行する。





 俺はニミッツから移り、今度は比叡にいた。

艦内に忘れ物をしていることを思い出したからである。

忘れたものは以前使った魔導通信珠、これでグレースに連絡を取ろうと思う。


「提督、お探しのものはこれですかな?」


 櫂野大佐が手に魔法通信珠をもってやってくる。

ありがとうと言って俺はそれを受け取った。

そして俺はそれに魔力を込め、通話の準備はできた。


『これはルフレイ陛下、どんな御用ですかな?』


 通話に出たのは軍務卿であった。

ちょうど良い、軍務卿というぐらいだからグレースよりも情報を知っているかもしれない。

俺は彼に話してみることにした。


「突然ごめんね、実は俺たちの船の上に人を乗せた見知らぬ翼竜? のような生き物が現れたんだが、その生き物について何か知らないかと思ってね」


『翼竜ですか。それは大陸の各国にて主要な航空戦力として採用されている生き物でございます。我が国も保有しておりますぞ』


 やはりあれは翼竜であったか。

各国で使用されているメジャーな戦力なだけに、どの国のものかはこの時点では判別が不能だな。

ならば俺が直接写真を見せて、どの国のものか調べてもらおう。


「ありがとう。今回上空を飛んでいた翼竜の姿を捉えたので、どの国のものか特定してもらうことって出来たりする?」


『勿論ですとも、ぜひ私を頼って下さい』


 良かった。快諾してもらえたようだ。

じゃあ早速王都へ向かうとしますか。

飛行機で行くことは出来ないからヘリでの移動にはなるな。


「じゃあ早速そっちに向かうことにするよ」


 そう言うと、向こうから「それはちょっと……」という声が聞こえてきた。

なにか事情があるのだろう。

ここで口頭で聞くにとどめておこうか。

そう思っていると、向こう側から事情を説明された。


『貴方様がいなくなってから女王様は何かおかしくなっているのです。いつもルフレイに会えるのはまだかと頂いた短剣を握りながら呟いておりまして、もし今会ってしまったら確実に女王様は壊れます』


 なんでそんなメンヘラみたいなことになっているんだよ。

だが確かに今会ったら二度と島に返してくれなさそうだな。


『なので私が直接伺いましょう。ついでに翼竜に乗っていきますので、ぜひ参考にしていただければと思います』


 本物の翼竜が見れるのか。

男の子なら一度は憧れた翼竜を生で見ることができるのは貴重な経験だな。

あわよくば乗れたりして。


「分かった。湾の近くを航行しておくから、船の上に着艦しておくれ」


『承知致しました。では1時間ほどでそちらに向かいます』


 彼はそう言い、通信珠は元の状態に戻った。





 約1時間後、空に点のように翼竜が見えた。

よく見ると1つではなく複数の点が確認できる。

俺はニミッツの艦橋から出、飛行甲板へと降りていく。


 点は段々と接近してき、ついにはシルエットがはっきり見える見える程の距離まで近づいてきた。

それは写真に写っていた翼竜そのものであった。

翼竜たちは上空を旋回した後、ニミッツへと順次着艦していった。


「お久しぶりです。それにしてもこの船は素晴らしいものですな。滑走路がそのまま海に浮かんでいるようだ」


「あぁ、そこに停まっている戦闘機などが海上からでも発艦できるように設計された艦だからね。それよりも俺は初めて見る翼竜に興奮しているよ」


 軍務卿は艦や戦闘機をまじまじと見つめ、俺は翼竜をじっくりと眺める。

しばらくしてお互いハッとし、あわててもとに戻る。

今回呼んだのはただ例の翼竜の所属確認をするためなのだから。


「では早速、これが見てもらいたい写真なんだが……」


 彼は写真を受け取り不思議そうに眺める。

光に透かしたり、匂い嗅いだりしているが何をしているのだろうか。

あ、まず写真を知らないのか。

彼も段々と写真ではなく写っているものに目が行ったようで、じっと見つめる。


「これは恐ろしく正確な絵ですな。この絵のとおりですと、その翼竜は我が王国のものではなくゼーブリック王国所属のもののようです」


 その後、俺は軍務卿から翼竜についての知識を教えてもらった。

飛行速度や上昇可能距離も気になったが、その中でもさらに気になるものが存在していた。

それは航続距離である。


 話によると、航続距離は約300km。

ゼーブリック王国は内陸部に多くの滑走路を持っていて、逆に海辺には殆ど持っていないとのこと。

ならばあの翼竜は何処から来たのだろうか。


 何か思いつくことがないか聞いてみたが、やはり答えは分からないだった。

もしかしたら何処かに空母のように翼竜を運用できる艦が存在するのかもな。

今後はそれらの偵察・監視もしなければならないな。


 軍務卿は仕事があるらしく、もう帰ると言う。

軍務卿を乗せた翼竜とその連れの翼竜は空へと旅立っていった。


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