今日も今日とて射撃練習。
俺は昨日に引き続き射撃訓練をしていた。
400Mでもずいぶん命中数が増え、着実に上手くなっていっているのを実感する。
ゴォォォォ……
突如、空を切り裂くようなジェット音が響く。
音のする方を見てみると、F−16Cが次々と離陸していくのが見えた。
それに続いてF−15Cも離陸していき、空に編隊を組んで飛行している。
「そういえば今日は飛行隊の連中が訓練をするって言ってたなぁ。なかなか上手いものだ」
ロバートが空を見上げて言う。
編隊は俺たちの頭上を通り過ぎ、大きな音と風を残して飛び去っていった。
一糸乱れぬ飛行に俺は見とれた。
「彼らもそうだが、艦隊の連中も司令に訓練を見てほしいものだと口々に言ってたよ」
そういえば艦隊は召喚しただけでまだ実際に乗り込んでは居ないな。
今日の昼からでも訓練を見に行こうかな。
そうと決まればロバートに俺が昼から艦隊を視察しに行くと伝えに行ってもらおう。
ロバートはハンヴィーに乗って鎮守府へと向かった。
昼頃、俺も鎮守府へと戻る。
ロバートがハンヴィーで戻ってしまったため、俺は歩きで帰る羽目になってしまった。
鎮守府に何とかたどり着いた俺は用意されていた昼食を食べ、港に降りていく。
港には既に大和のラッタルが降りており、俺はそれをのぼる。
大和に乗艦し、艦内のエレベーターを使って艦橋上部にある防空指揮所に向かう。
そこからは素晴らしい眺めが広がっていた。
「司令官、艦に到着されたと聞きましたが、まさかここにおられましたとは」
後ろから声をかけられ、俺は振り返る。
そこには紺色の第一種軍装に身を包んだ恰幅の良い男が居た。
襟章を見る限り、櫂野大佐と同じ大佐のようだ。
「初めましてですな。私は山下、階級は大佐であります。気軽に山下とお呼び下さい」
「よろしく山下。では早速だが、今日の航海予定を教えてくれるかい?」
「承知しました。大和以下14隻からなる本艦隊は、ヒトサンマルマルにイレーネ湾を出港、そのまま西進した後に北へ変針、その後航空機の発艦練習と陣形を組む練習を行い、ヒトハチサンマルに帰投いたします」
ちなみに大和と遠征中の比叡が第一艦隊第一部隊所属、ニミッツとタイコンデロガ級の1隻とアーレイ・バーク級の6隻が第二艦隊第一機動部隊所属、その他が第三艦隊第一上陸部隊所属となっている。
今回はそれらのすべてが参加する連合艦隊としての出港だ。
懐中時計を見ると、ちょうど13時をまわったところであった。
出港ラッパが鳴り響き、全艦抜錨が号令される。
抜錨した艦艇達はタグボートによって湾外へと次々と運び出された。
湾外に集結した艦艇群は西の方角へと航行を始める。
艦隊は先頭を大和、中心をニミッツとした輪形陣を形成した。
まさにその光景は威風堂々を体現したものだった。
防空指揮所からその光景を見た俺は、思わず歌を口ずさむ。
「守るも攻むるも黒鐵の〜浮かべる城ぞ頼みなる〜♪」
行進曲『軍艦』
日本の軍歌といえばこれが1番有名なのではなかろうか。
パチンコ屋に行ったことのある人は大体がこの曲を知っているはずだ。
「司令、歌を歌うのもよいですが比叡より電報が届いております」
電報? なにかトラブルでもあったのだろうか。
俺は山下大佐から電報を受け取り、中を確認する。
そこにはこう書かれてあった。
『ワレ フメイキノショクセツヲウク』
不明機だと? この前爆撃機から確認された機体であろうか。
何が起こるか分からないので、取り敢えずは迎撃隊をあげるべきだろう。
だが比叡の位置取りを確認するのが先決だ。
俺は第一艦橋へと降りていく。
艦橋内ではクルーたちが忙しそうに動いていた。
俺は彼らの動きを一時的に止めるよう指示し、情報の整理を行う。
「取り敢えず現状を教えてくれ」
俺の言葉に、山下大佐が答える。
「はい。まず我々は先程比叡からの電報を受信、受信すると同時にモールスで僚艦へと情報を伝達し既にニミッツからはE−2Dが飛び立とうとしております」
判断が早くて素晴らしいな。
それにしてもモールスって、なんて古典的なやり方なんだ。
まぁ大和に現代的な通信システムは備わっていないので仕方ないが。
ふと窓の外を見ると、E−2Dホークアイが飛び立っていくのが見えた。
「この後迎撃の戦闘機隊が飛び立ち不明機に接触、情報を収集いたします」
分かった、といい俺は防空指揮所へと戻る。
空を見上げながら、何もなければいいのになと思った。
◇
『タイタン1、こちらはピープサイト。貴機はこれより本機の管制下に入る』
タイタン1と呼ばれるのは戦闘機隊の隊長だ。
『今回の目的は比叡の援護と敵機の情報収集だ。レーダー上の表示は当たり前だがUnknown、そこで君たちには直接写真を取ってきてほしい』
ホークアイから指令の無線が入る。
F/A18E、Fスーパーホーネットの編隊は比叡に向かって猛スピードで飛行していた。
比叡までの距離はそこまで遠くなく、この調子だとあと10分ほどで到着するだろう。
機内のHUD上には機影が10機映っており、これが今回の不明機というやつだ。
翼下のパイロンにはサイドワインダーを4発、AMRAAMを6発搭載しており、いざ戦闘となったときにも対応が可能だ。
僚機の2機を従え編隊を組みながら、アフターバーナーを吹かしてスーパーホーネットは速度を上げる。
『隊長、不明機を目視しました』
比叡上空、僚機の1機が不明機を見つけたようだ。
タイタン1も目視したようだが、それは飛行機とは言い難いものだった。
それには翼が生え、子供の頃に絵本で見たドラゴンのような姿をしていた。
『分かった。写真を頼む』
僚機の1機はF型で、後部座席があるのでそこから撮影を行う。
『撮れました、が……これは飛行機というよりはむしろドラゴンなのでは?』
しっかりとカメラにドラゴンの写真を収めることが出来た。
戦闘機隊はそれらの横について飛行を行うべく高度を下げる。
横にはついたが、戦闘機と生き物とではまるで速さが違う。
そのドラゴンはスーパーホーネットがなんとか失速しない時速200km付近の速度で飛行している。
無線で呼びかけてみるが、勿論応答はない。
そのまましつこく付きまとっていると、ドラゴンは反転して離脱しようとする。
スーパーホーネット部隊もそれを追跡する。
少しそれを追ったところで、ホークアイから通信が入る。
『タイタン1、それ以上の追跡は不要だ。母艦へと帰投せよ』
スーパーホーネットの編隊は進路を空母へと取った。