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第46話 帰還

 対抗戦の終了から1週間後。

学園は前期の授業を終え夏休みに入ろうとしていた。

国外から通っている生徒はこの機会を利用して母国に帰り、家族との時間を楽しむ。


 俺に家族はいないが、島に残してきた仲間のことも気になるので戻ることにした。

こうして島に戻るのは何だか面白い気分だ。

そしてそのついでにフローラを連れてくることになったが。


 そういえば、対抗戦でグレースに卑猥な行為を働こうとしたロイドは学園を強制退学、母国に送還されたらしい。

当たり前のことだが、これが原因でゼーブリック王国とルクスタント王国との関係が悪くならなければ良いのだが。


 そしてなぜかそれについてマクシミリアンも自主退学を選んだらしい。

こちらは全く持って謎である、が何かしらの力が働いたのだろう。


「では皆さん、良き夏休みを。ちゃんと登校日には登校してくるんですよ」


 メリルの話が終わり、生徒たちはぞろぞろと教室を出ていく。

俺の今日のスケジュールは、この後すぐに王城に帰り、あらかじめまとめておいた荷物を車に詰めて出発する。

そしてフローラを途中で拾い夜までにフォアフェルシュタットに到着、そのまま比叡に乗り込んで島に向かう予定だ。


 俺とグレースは迎えの馬車に乗り、王城に帰る。

その道中、グレースが俺にこういってきた。


「ルフレイの島に私も連れて行ってくれないかしら? 私も一度行ってみたいの」


 だが俺はその願いを断る。


「グレースは女王としての仕事があるでしょう。自分の国民のためにちゃんと働いて下さい」


 そう言うと彼女はぶすっとする。

そんなに来たいならいつかは連れてきてあげても良いかもな。


 だがイレーネ島にはいかんせん泊まる場所どころか家の1軒もない。

まずはインフラなどの基本的なものの整備もしないといけないな。


 そんな話をしているともう王城に到着した。

既に迎えの車が待機しており、俺はそれに乗り込むべく馬車を降りようとする。

そんな俺の腕を彼女はぐっと掴み、俺はその反動で後ろに姿勢を崩す。


 ポムッ


 俺の後頭部に何やら柔らかいものが当たった。

俺はこの感触を一度味わったことがあるので知っている。

これはイズンの胸に感じたものと同じ感触だ。


「キャー! ルフレイのえっちー!」


 俺は彼女に頬を思いっきり打たれた。

その瞬間何処からか冷たい視線を感じたが気のせいだろう。

俺はあわてて謝り、グレースも俺を突然引っ張ったことを謝った。


「その……えっと……少しの間離れるけれども、私のことは忘れないでね?」


 グレースは顔を真っ赤にして言う。

ロイドの一件があってからグレースがさらに変になっているが、あんな事があったから甘えたいんだろう、俺は彼女が安心し切るまで慰めることにした。


 俺はゆっくりと彼女の頭をなでながら言う。


「どうしてグレースのことを忘れようか。俺はいつまでも君のことを覚えているよ」


 グレースは顔をさらに真っ赤にさせてうつむいた。

その御蔭で俺には彼女の顔がよく見えない。

その頬を一筋の涙がつたったことに俺は気づかなかった。


「そうだ、ちょっとまっていてね」


 俺は馬車を降りてあるものを取りに行く。

少しして、俺は荷物の中から短剣を持ってくる。

そして短剣を彼女に渡した。


 グレースはそれを受け取り、嬉しそうに抱える。

さぁ、イレーネ島に帰ろう。

俺は馬車を降りて再び車へと向かう。


「ルフレイー! 私はあなたのこと……いえ、絶対に戻ってきてねー!」


 グレースはそう言って手を大きく振る。

俺もそれに答えて手を振り返す。

そういえば彼女は何かを言おうとしていたが一体何だったんだろうね。

俺はハンヴィーに乗り込み、車列は王城を出発した。


 しばらくして、車列はマルセイ商会前に停まる。

商会の前でフローラは既に待っていたが、中々車内に入ってこない。

彼女はドアを開けてあげると、車内に恐る恐る乗ってきた。


「初めて見る乗り物です。一瞬新種の魔獣かと思いましたがそうでは無いようですね」


 初めての車に興味津々なフローラを乗せて、ハンヴィーは走り出す。

やがて俺はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。

フローラに揺さぶられて起きると、そこはもうフォアフェルシュタットであった。


 ハンヴィーから降りると、心地よい潮風が頬を撫でる。

湾内には比叡が静かに、だが力強く停泊していた。

少し港の方に歩いていくと、比叡の内火艇が出迎えに来ていた。

俺たちは内火艇に乗り込み、比叡に接近していく。


「あの船がここに停泊し始めてから、もしやとは思っていたけれどもやはりあなただったのね。あんな船を持っているあなたの国は一体どんなものなのかしらね」


 彼女がそう言っていると、内火艇は比叡に接舷する。

はしごを上って最上甲板に出ると、櫂野大佐が出迎えてくれた。


「おかえりなさい司令官。そしてフローラさん、ようこそいらっしゃいました。我々は歓迎いたします」


 最上甲板に並んでいた水兵が一斉に敬礼をする。

俺はそれに返し、櫂野大佐に言う。


「彼女を部屋に案内してくれたまえ」


 櫂野大佐は俺に一礼した後、フローラを連れて艦内に消えていった。


 俺はその後、彼らとは異なり艦橋へと向かって言った。

艦橋内の階段を上がり、俺は昼戦用の艦橋にたどり着く。

そこからは果てしない海が見え、水平線には日が傾き始めていた。

比叡は煙を上げながらフォアフェルシュタットを出港する。





 俺はその後艦長室に戻り、一夜を明かした。

朝舷窓開けてみると、既に水面には太陽光が反射している。

最上甲板に上がると、遠方には島影が見えている。


「おはようございます、いい朝ですね」


 声のした方を振り返ると、フローラがそこに立っていた。

俺たちはそのまま一緒に艦首の方へと歩いていく。

フェアリーダーに手をかけながら俺たちは島を見る。


「これがルフレイ様の言っていたイレーネ島なのですね。上陸するのが楽しみです」


 フローラは島を見てうきうきしている。

だが残念ながら島には何もないけれどもね……

そのまま比叡は島に向かって海を進んでいく。


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