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第45話 2人でお出かけ②

 フローラに泣きつかれた俺は、取り敢えず彼女を必死になだめる。

だが彼女は泣き止まず、ずっと謝り続けるばかりであった。

だが謝られているだけでは何が何だか分からないので、取り敢えず理由を聞くことにする。


「分かった分かった。で、どうしてフローラはそんなに俺に謝るんだい?」


 そう聞くと、彼女は鼻をすすりながら俺の方を向いて話し始める。


「だって、私の渡した指輪のせいであなたが大変な目にあっていたかもしれないと思うと……でも今はこうして無事に再開できているから嬉しくて……」


「ちょっと待って、全く話の意味がわからないわ」


 グレースが話の間に割って入ってくる。

彼女は俺とフローラの間で何があったのか知らないので困惑しているようだ。

俺は簡単に何があったのかを説明する。


「ええと、まず俺は海賊に襲われていた彼女の船を助けてそのお礼にと指輪をもらった。だがその指輪には指輪の位置を特定できる機能がついていて、その機能が島と王国の戦争のきっかけになったってことだな」


「なるほどね、アルベルトお兄様が島を見つけたわけではなくて、その島の存在をアルベルトお兄様に伝えた人物がいるということかしら。となれば疑わしいのはあなただけれどもどうなの?」


 グレースの言葉にフローラは首を必死に横にふる。

ではグレース以外にこの情報を知りえる人がいたのであろうか。

鑑定結果だのよると、専用の装置を使用することで場所の特定が可能だと言うが、その装置を他に使える人物がいたのだろうか。


「それは断じて違います。位置を特定するためには専用の装置を用いる必要がありますが、それを使用することができるのは商会長である私と副商会長の2人です。そしてその副商会長が情報を売ったのであります」


 彼女以外にも装置をいじることのできる人が居るのか。

彼女でないとなると当然その副商会長とやらが怪しいな。


「ではその副商会長とやらはどこにいるの?」


 グレースの質問にフローラははっとする。

そして彼女は何かを恐れたような顔をしながら答えた。


「はい……。その、副会長はもう……」


「死んだのね」


 グレースの言葉にフローラは頷く。

情報を漏らさないためにアルベルトとやらに殺されたのかもしれないな。

副商会長が死んだとなれば、何が起こったのかはわからなくなる。

これ以上彼女に聞いても仕方がないだろう。


「フローラ、もうこれ以上は聞かないよ。俺は現に生きてここに居るし君もあれを僕に渡したのには何か理由があるのだろう?」


 俺の言葉にフローラは少し安堵した顔をする。

しばらく悩んだ後、彼女は口を開いて指輪を渡した真意を語った。


「私はただ命を助けてくださったルフレイ様になにか恩返しをしようと思っておりましたが、イレーネ島という知らない島に住んでいるとおっしゃられたのでその場所を知ろうと思っただけです……が、それが結果的にあなたに問題をもたらすことになってしまって申し訳ございません」


 別にいらないといったのに恩返しを考えていてくれたのか。

やはりあの時彼女を助けておいて良かったな。


「まぁともかくこれで一件落着ね。ならルフレイがいる今こそ恩返しのチャンスじゃない?」


 グレースの言葉にフローラはそうかと手を叩く。

そして俺をキラキラとした目で見てきて言う。


「ではルフレイ様! この店の中にある好きなものを何でも持っていってください! 別に全部持っていってくださっても構いませんよ」


 だから別にいらないって。

そう思った俺は彼女の提案を断った。

だが彼女はそんな俺にしつこく持っていくよう迫る。

そんな俺たちの押し問答を見たグレースが間に入ってくる。


「ならばあのグラスを貰えばいいじゃない? あなた気に入っていたでしょう」


 そういってグレースは先ほどまで俺が見ていたグラスを指差す。

たしかに欲しいとは思ったがもらうのは流石に悪いだろう。

俺が断ろうとすると、フローラは既に何処からか出した袋にそのグラスを4つぐらい詰めていた。


「待て待て、別に大丈夫だから本当に」


 俺はフローラを止める。


「このグラスがお気に召したのでしょう? ならばいくつでも差し上げますわ」


 その後、俺とフローラの壮絶な戦いが繰り広げられたが、俺はついに敗北した。

結局彼女に渡された袋には片手に5こ、両手に10このグラスが入っていた。

このグラスがいくらか聞くと1つで平民の給料3ヶ月分だと聞いた時には何が何でも返そうとしたが、結局彼女に押し負けた。


「ありがとうございました〜。またいつでもお越しください〜」


 フローラは後ろで手を振りながら俺たちを見送っていた。

俺が店を出ようとしたところで1つ彼女に聞きたいことを思いついた。


「そういえばこの商会は魔物の肉の買い取りはやっている? やっているのならば少し売りたいものがあるんだけれど」


「えぇ勿論ですよ。どのようなお肉をお売りいただけるのですか?」


 俺が売ろうと思っているのはイレーネ島で取れる魔物の肉だ。

以前王城で食材として一度だけ使用してもらったが、かなり好評だったのでもしかしたら売れるかもしれないと思ったのだ。

肉以外にも素材も取れるのでそちらも売れればいいが、あんなものを欲しがる人がはたしているのだろうか。


「ねぇルフレイ、もしかしてその肉ってこの前一度だけ食べさせてもらったコカトリスの肉っていうやつ?」


「そうだよ。好評だったようだから売れないかなと思って」


 その言葉を聞いたフローラは固まってしまった。

やはりコカトリスの肉なんて聞いたら買う気は失せるのかな。

なかなかに美味しかったが仕方ないな。


「コカトリスの肉、ですか? コカトリスは伝説上の生き物で存在しないものだと思っていましたが、まさが食べたことがあるんですか?」


「えぇ、ほっぺたが落ちるほど美味しかったわ。味は私が保証するわよ」


 フローラが目を輝かせる。

どうやら受けが良いようだ。


「それほどならばぜひ売っていただきたいものです! ただ価格を査定しなければいけないので現物を持ってきていただかない限りはなんとも言えないのですが」


「分かった。今度実物を持ってこようか。それにこれから継続的に販売するとなれば販路の開拓が必要だね。ならば販路開拓も兼ねて俺の島に来る?」


 学園は8月の中旬から1ヶ月夏休みに入る。

その間は俺は島に帰ることにしていたので、ついでにフローラを島に案内しておこう。

今後の恒久的な販路、資金源確保のためにもこれは重要だ。


「一緒に行ってもよろしいのですか!? ぜひお願いします!」


 俺たちは島に行く日や出港の時間を約束し、今度こそ帰宅の途に着く。

帰ろうとする俺達に最後に彼女はこう聞いてきた。


「おふたりは一体何者なんですか?」


 その質問に、俺達はこう返す。


「ルクスタント王国女王、グレース=デ=ルクスタントよ」

「イレーネ帝国皇帝、ルフレイ=フォン=チェスターだ」


 驚いて固まったままの彼女を置いて、俺たちは歩き出した。


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