学園内対抗戦の日の夜。
王城内の食堂では俺たちの優勝祝勝パーティーが開かれていた。
主役の俺たちはもう食べられないほどの豪華な料理を食べさせられた。
今は食事が終わり雑談のタイミングにシフトしていた。
「それにしてもルフレイ君はかなり強引だったわね~。うちの娘が気に入ったかしら?」
マリーが俺をからかうように言う。
だが残念ながらあれはグレースの望んだことだ。
傍から見たらそう見えるもしれないが、誤解を生みかねないので訂正しておこう。
「いえ、あれは彼女が望んだことでしたので」
俺の言葉を聞くと、マリーは「あら」という反応をする。
マリーがグレースにそうなのかを聞くと、彼女は何も答えなかった。
その様子を見たマリーがフフと笑うと、グレースは反発する。
「違うから! そういうのじゃないから! ってまだ笑っている、もー!」
そんな彼女を見てその場にいる全員が笑う。
そうしていると、マリーがある提案をしてきた。
「明日は休みだから、2人で出かけてきたらどうかしら? ルフレイ君は全然街を歩き回ったことないでしょう? いい機会になるのじゃないかしら」
確かにそうだな。
俺は一切この王都を歩き回ったことがない。
それにグレースが一緒に行ってくれたら案内してくれるだろう。
「あ、あなたが行きたいのであれば一緒に行ってあげてもいいわよ?」
お、グレースも行く気満々のようだな。
俺たちは明日の外出を約束してパーティーは終了した。
◇
翌日の朝、俺は軍服に身を包んでグレースを待っていた。
彼女は服を選ぶのに迷っているらしく、かなりの時間がかかっている。
少し待っていると、グレースが姿を現した。
「おまたせ、この服、その、変じゃないかしら?」
彼女は白のきれいなフリルのついたワンピースに身を包んでおり、大きなリボンのついたつばの広い帽子をかぶっていた。
お世辞でもなんでもなく彼女は思わず見惚れてしまうほどきれいだった。
「うん。とてもきれいだよ」
俺は素直な気持ちを伝える。
でもこんなふうに言ったら気持ち悪いと思われないだろうか?
「そ、そう。ありがとう」
特に気持ち悪いとは思われてはいないようだ。
そんな彼女の顔を見るとまた顔が赤くなっている。
一昨日ぐらいから顔が赤くなるのをたまに見るが体調でも悪いのだろうか。
俺は彼女の額に手を乗せ、反対の手を自分の額に乗せる。
「!」
彼女に熱はないようだ。
だが逆に彼女の顔はもっと赤くなる。
グレースは俺から顔をそらしてしまった。
「私は大丈夫だから! さぁ行くわよ」
グレースが俺をおいて歩き始める。
それの続いて俺も彼女を追うように歩き始めた。
◇
王都内の商店街を俺たちは歩いている。
様々な露店から漂ってくる料理の香り、よだれが出てくるな。
俺が露店のご飯をチラチラ見ていると、グレースが話しかけてくる。
「露店のご飯が気になるの? そうね、じゃあ何か食べましょうか」
グレースはそう言うと、露店の方に駆け寄っていく。
そして何か吟味しているような素振りを見せた後、何かを買って戻ってきた。
戻ってきた彼女の手には串焼きが握られていた。
「はいどうぞ。私の奢りでいいわ」
ありがたく彼女から串焼きを受け取り、それにかみつく。
それからはジャンキーな味がし、最近味わっていなかったこの味に感動する。
グレースもグレースで美味しそうに食べていた。
串焼きを食べ、俺たちは再び歩き出す。
しばらく歩いていると、グレースがふと足を止める。
彼女の目に入っているのはブティック、つまり服屋であった。
「ルフレイってほとんど服を持っていないわよね? いくらか買っていったらどうかしら」
俺は今は制服以外は軍服しかもっていない。
確かに日常使いの服はいくらか持っていてもいいかもな。
俺たちはブティックに入る。
ブティックの中はモダンな服であふれていた。
昔の自分とは違うからどんな服が似合うかわからないな。
グレースにも相談しながら探しますか。
「なぁグレーs」
「ねぇねぇルフレイ、この服なんてどうかしら」
そう言う彼女の手にはフリフリのスカートがあった。
流石に俺に着ろというわけではないだろうから、彼女が着たいものだろう。
俺と一緒にグレースも買うのかな。
そう思っていると、彼女は店の奥へと駆けて行ってしまった。
仕方がないので俺は自分で服を探すことにしよう。
しばらくしていると、彼女は手に大量の服を抱えて戻ってきた。
「ねぇ、どの服ががいいと思うかしら! ちょっと見てくれない?」
その一言で、俺は彼女の試着に付き合うことになった。
試着にかかった時間、およそ1時間半。
正直どの服を着ても本人がかわいいので、どれでも「かわいい」という感想しか出てこなかった。
結果、グレースはその中から数着を購入することにしたようだ。
そして購入が終わり、俺たちはブティックを後にした。
だが何か忘れているような……
まぁなんでもいっか! 気にしない気にしない。
またしばらく歩いていると、1つの大きな建物に出くわす。
その看板には『マルセイ商会』と書いてあった。
マルセイ商会といえば前にフローラを助けたときに、この商会の商会長だと言っていたな。
そして彼女のくれた指輪が戦争の発端になったのだが。
「あら、ここはマルセイ商会ね。ここであればいろんなものが手に入るから一度入ってみましょうか」
俺たちはマルセイ商会の中に足を踏み入れる。
入るとまずはロビーが姿を現し、ロビー内のカウンターにいる従業員が俺たちに話しかけてくる。
「いらっしゃいませ。本日は何をお求めでしょうか?」
俺たちに丁寧に接客する従業員。
俺は前世でもこんな接客をしてくれる店に行ったことがなかったのでどう答えればいいのか分からなかった。
というかこんな接客をしてくれるなんてもしやここは高級店なのでは……?
そんな少し混乱する俺の代わりにグレースが答えてくれる。
「今日は特に何か目的があってきたわけではないわ。適当にうろうろさせてもらうわ」
「左様でございますか。ではお供いたします」
そのまま従業員が後ろに付いたままグレースは階段を上り2階の販売コーナーへと向かう。
予想通りそのコーナーにはいかにも高級そうな家具がそろっており、ここが高級店だと認識する。
一方でグレースは何食わぬ顔で品物を物色し、従業員から商品の説明をうけている。
俺はその輪に混ざることは出来ずに、1人で品物を物色する。
そんななか、俺の目に留まった1つの品物があった。
それは瑠璃色のガラスを金で縁取ったグラスであった。
美しいグラスを眺めていると、グレースが話しかけてきた。
「そのグラスをじっと見つめているけれどそのグラスが気に入ったの? 気に入ったならば買ってあげるわよ。あ、お金の心配はしなくてもいいわ」
グレースは買ってくれると言っているが、今はただでさえ王城に居候しているのにこれ以上施してもらうわけにはいかない。
確かにこのグラスは欲しいが、今回はあきらめよう。
今後自分で買うことができるようになってから改めて買いにこよう。
そう思っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ。何かわからないことがありましたら、遠慮なく従業員にお申し付けくださいね」
後ろから聞こえてきた若い女性の声、それは間違いなくフローラのものであった。
俺が後ろを振り向くと、ニコニコしたフローラの顔があった。
あれ以降無事に帰還することが出来たんだな。
向こうも俺に気づいたらしく、俺を見つめてきた。
すると彼女は突然涙を目に浮かべ、俺の方へと突進してきた。
あわてて俺は彼女を受けとめる。
「うわぁぁぁぁん!! スミマセンでしたー!!!!」
フローラは俺の胸の中ですみませんと泣き叫ぶ。
俺には謝られる心当たりがないので困惑してしまった。
そんな俺達の様子を見てグレースが叫ぶ。
「なんなのよこの女〜〜〜〜!!!!」