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第41話 学園内対抗戦・予選

 太陽がさんさんと輝く下、学園内対抗戦の日がやってきた。

まずは参加するペアが4つの組に振り分けられる。

その組のペアが総当たりで対決し、残った一組のみが本戦に出場できる仕組みだ。

会場である闘技場の前にすでに組み分けの紙が張り出されており、俺とグレースはそれを確認しに来ていた。


「えーと俺たちの組は……あ、あった」


 紙にはAチームだと書かれていた。

Aチームはその横に貼ってある時刻表によると最初に試合が行われるらしい。

最初の試合まであと15分ほどしかなかったので、俺たちは急いで会場入りした。


 会場内には参加する生徒たちがそろい始めており、俺たちもその中に混ざる。

グレースの顔は他クラスでもよく知られているので、俺達の立った周りから人が避けていく。

食堂でもよくあったことだが、身分の高いグレースは苦労が多そうだなぁといつも思う。

俺は彼女とは正反対に皇帝だが殆ど知られておらず、気軽なのでよい。


 そう思いながら待機しておると、グレースに袖を引っ張られた。

なんだろうと思って彼女の方を向くと、彼女は俺の手に急に小さな箱を載せる。

箱を乗せる彼女の顔が少し赤い気がしたが、気のせいにする。

なんだろうと思いつつ箱を開けてみると、中にはいっていたのはシルバーの指輪であった。


「前に言っていたMPの回復速度を10倍になる魔道具よ。本当はもう少し経ってから渡そうと思っていたんだけれども、今回の対抗戦で活躍するのではと思って先に渡すことにしたの」


 俺は指輪を箱から取り出し、そっと指にはめる。

指輪をはめたとたんに体の中にすごい速度でMPが湧き上がってくるのがわかる。

この感覚はなかなかいいものだ。


「その指輪……ずっとつけていてよね。絶対に無くさないでね」


 当たり前だ。これほどの有用な魔道具を手放すはずがない。

俺がグレースにうなずくと、彼女も嬉しそうにうなずいた。

そうしていると、対抗戦の始まりを示す鐘が鳴らされる。

さぁ、いよいよ始まるぞ!


「さぁ、お待ちかねの学園内対抗戦がいよいよ幕を開けます! 今年は対抗戦史上最多となる80組160名が我こそはと出場してくれております! 激闘を制し王座をつかむのは誰でしょうか!」


 どこからともなく響くナレーションに、会場内は大いに沸き立つ。

俺はその熱気に圧倒された。


「ではまずは予選から開始となります! 最初はAチームの選手たちの登場です!」


 ナレーションに合わせて、Aチームの選手たちがフィールドの真ん中に集まる。

どの選手たちもやる気に満ち溢れている様子がよく伝わってくる。

だがここで俺たちが負けるわけにはいかない。

グレースをあいつらの好きにさせるわけにはいかないのだ。


「では、鐘の音とともに予選開始です! 皆さん準備はよろしいでしょうか!?」


 その声に選手たちは大声で答える。

その声に会場は再度歓声に包まれる。

歓声がまだ鳴りやまぬうちに、開始を示す合図の鐘が鳴らされた。


 合図とともに、魔法科の生徒は杖を、剣術科の生徒は剣を素早く構える。

そんな中、俺たちは事前に打ち合わせたとおりの作戦を実行する。

その作戦は名付けて『引きこもりチビチビ嫌がらせ作戦』である。


 この作戦の概要を説明しよう。

まず引きこもりとは、その言葉の表す通り全周展開された防御魔法のなかに引きこもることを意味する。

そしてチビチビとは、防御魔法の中からチビチビと攻撃をすることを意味する


 卑怯な作戦に見えるかもしれないが、防御魔法の全周展開からの攻撃は普通に思いつくことではなかろうか。

だがこの作戦には1つ致命的な欠陥が存在する。

それは、そもそも防御魔法の中から魔法を撃ったら防御魔法内で魔法が消滅してしまうことである。


 俺がこの計画を提案したとき、グレースにその点を指摘された。

その解決策はないものかと考えた俺は、ある1つの結論に達した。

それは防御魔法が自由自在に変形可能であるという性質を利用することである。


 俺は防御魔法でカメラのレンズシャッターを模すことを思いついた。

レンズシャッターは、必要に応じて開いたり閉じたりと動作する。

つまりグレースが魔法を放つ一瞬だけシャッターを開け、放ち終わった瞬間に閉めればよいのだ。

一度試作して実験してみたが、その結果はすこぶる良好であった。


 この作戦に基づき、俺は自分とグレースに瞬時に全周囲に防御魔法を展開する。

その後、彼女の防御魔法の前面にはシャッターを構築する。

今回の防御魔法はMPをこの前の10倍の100消費して作り出しているから突破は難しいはずだ。

もっと込めることもできるが、これ以上は過剰だと判断して100に落ちついた。


 ちなみに俺は攻撃には参加しない。

俺が攻撃に参加してしまうとグレースのシャッターの開閉を間違える可能性があるからだ。

俺は彼女のサポートに徹することにしたのだ。


 会場内では既に各所でペア同士の戦闘が発生している。

もちろん俺たちの方にも攻撃が飛んでくるが、全周囲に展開された防御魔法はそれを俺たちのもとに通すことはなかった。

グレースの方を見ると、彼女も準備が完了したようだ。


 俺がシャッターを開けると同時に、グレースの杖から魔法が放たれる。

杖から放たれた魔法は、正確無比に目標に着弾した。

俺はさらにシャッターを連続で開閉し、彼女はそれに合わせて魔法を放ち続ける。

しばらくしていると、俺たち以外のペアは全て地面に突っ伏していた。


「何ということでしょう! 一撃も浴びずにグレース=ルフレイペアの勝利だー! 破ることのできない防御魔法、強すぎるーっ!」


 会場の中が割れんばかりの拍手に包まれる。

俺たちは無事に予選を突破することができたようだ。


 その後、B、C、D組の予選がそれぞれ行われた。

B組ではマティアスのペア、C組ではマクシミリアンとロイドのペア、D組ではSクラスの生徒のペアがそれぞれ予選を突破、本戦への出場権を獲得していた。


 明日の本戦を控え、対抗戦1日目は終了した。


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