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第40話 学園対抗戦にエントリー

 学園入学から早くも2ヶ月が経とうとしていた。

今は8月、日本ならセミが激しく鳴く季節であるが、こちらには残念ながらセミは存在せず、ただただ暑い日々が続いている。

この8月には学園の中で1、2を争う大きさのイベントがある。

その名も学園内対抗戦、学園内の生徒がそれぞれ2人組のペアを組んで最強を決める行事である。


 だが俺には1つ大きな懸念点があった。

それは2人組のペアを組まなければならないということである。

現状ではグレースが最もペアを組んでくれる確率が高そうではあるが、彼女も別の人とペアを組むかもしれない。

エーリヒは不参加だそうだし、彼女以外に組んでくれそうな人が見つからない。


 取り敢えずグレースに聞いてみないことには始まらない。

俺は意を決して彼女のもとに行く。

今は断られるかもしれないことは忘れておこう。


 だが、そこには既に先客がいた。


「グレース女王陛下、よければ私とペアを組んでいただけませんか」

「いえ、ここは私と組んでいただけませんか。私となら必ず女王陛下を優勝に導いてみせます」


 そこにいたのはヴェルテンブラント第二王国王子のマクシミリアンとゼーブリック王国王子のロイドであった。

彼らはたびたびグレースに絡んでは、無視されてを繰り返している。

いい加減諦めたらどうなのかと思うが、彼らは一向に諦める様子はなく、むしろ最近はさらに猛烈にアタックを繰り返している。

今回もそれだろう、グレースもかわいそうだな。


「何度も言っていますが、私はあなた方と組むつもりはありません。お引き取り願います」


 グレースはきっぱりと断るが、それでもなお彼らは引かない。

何ならいつもよりも数倍執拗に絡んでいるな。

そう思っていると、マクシミリアンが突如グレースの腕を掴んだ。


「女王陛下、どうして私達にはそんなに冷たい態度を取られるんですか。私もロイドも王子です。いつも一緒にいるルフレイとかという男と違ってあなたと一緒になるのに相応しい身分です」


 マクシミリアンがそういうのに便乗してロイドも続ける。


「そうですよ。それにあなたは一国の王であり我々は一国の王子。我が国はあなたの国よりも強大であることはご存知であると思いますが、あなたの態度はあなたの国と我が国の友好関係にも直結します。友好関係を維持したいのであれば私達の言うことを聞いたほうが懸命ですよ」


 彼らが高圧的な態度を取っている状況にグレースは怯えているのか声も出ていない。

俺は国を人質にして自分たちのいうことを通そうとする傲慢なやり方を許すことは出来なかった。

俺は彼らの間に強引に割り込む。


「お前ら、国を人質にするようなことを言っていて情けなくないのか。お前らのやっていることははっきり言って最悪だぞ」


 俺はグレースを掴むマクシミリアンの手を引き剥がす。

その衝撃によろけながらも俺に対して罵声を浴びせかける。


「おい貴様、それは俺がどんな身分の人間か分かっていっているのか。女王に気に入られているからかしらないが随分となめた口を聞いてくれるな庶民が」


 俺のことを庶民呼ばわりか。

確かに日本ではただの庶民であったが今は違う。

いまやイレーネ帝国の皇帝であり、軍をまとめる立場の人間なのだ。


「そんなこと知ったことではないな。あんなふうにグレースをぞんざいに扱い、かつ自分の欲望を押し付けようとするやつに彼女のペアは務まらない」


「ルフレイ……」


 グレースの顔は恐怖で青ざめている……ことはなくむしろほんのりと赤かった。

怒っているのだろうか、とにかく彼女を安心させるために俺は彼女の頭を優しく撫でる。

だが逆に彼女がはゆでダコのように真っ赤になってしまった。


「俺がグレースと組む。それでいいかい?」


 俺の言葉にグレースは首を大きく縦にふる。

これにてルフレイ=グレースペアの誕生だ。

断られるかもしれないという心配は杞憂に終わった。


「本当に私達でなくてよろしいのですね……? ならばわたしたちでペアを組み、あなた方を叩きのめしてみせます。覚悟しておいて下さいね」


「では勝ったほうが負けた方の言う事を何でも聞くというのはいかがですか?」


 言うことを何でも聞く、か。

それは日本のそういう系の文章では定番の展開だが、流石に誰も承諾はしないだろう。

承諾してしまったら何でもにことかけてあんなことやアッアー♂なことをされるかもしれないからな。


「分かりました。その勝負受けて立ちましょう」



 俺は一瞬耳を疑う。

今承諾するって言ったよな?

もしも負けたときにどうするつもりだと言いたくなったが、俺の気持ちに反して彼女の顔つきは真剣そのものだったので俺は何も言わなかった。


「今受けると言いましたね? その言葉に二言はありませんよね。まぁせいぜい負けたときの心づもりでもしていてくださいね。クヒヒ……」


 彼らはそう言って立ち去っていった。

ロイドがこちらを振り向いてあっかんべーをしてきたので、こちらは変顔で返答してやる。

一瞬笑いそうになったが、すんでのところで笑いを押しこらえて去っていった。


「で、グレース。あんなことを言ったわけだが俺達に勝ち目はあるのか?」


 勝ち目があるのか不安な俺はグレースに尋ねる。

だが俺のそんな気持ちとは裏腹に、グレースはニヤッと笑って答える。


「何を言っているのよ、あなたの防御魔法を貫通することはどんな人間でも不可能だわ。それさえあれば私達は無敵だわ」


 確かに攻撃が通らなければ問題はないか。

それに俺の防御魔法はいざというときには攻撃手段としても使えるからな。

何なら俺だけでも勝利できるかもしれない。

だが慢心はゼッタイにダメだ。


「そうと決まれば早速特訓するわよー! 燃えてきたわー!」


 グレースもやる気が漲っているようだ。

それから対抗戦までの間、俺達は毎日作戦や練習の時間に費やすのであった。


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