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第39話 魔石を加工しよう

 週末も終わり、学園の授業がまた始まった。

いつも通りの6時間の授業を終えた放課後、俺はグレースとともにある人と会っていた。

この前に俺の設計図に食いついてきた魔族のエーリヒだ。


「やぁルフレイくん。今日は僕に何の用事ぃ?」


 今日彼に話しかけたのは他でもない、蒸気タービンのことだ。

魔道具の制作と運用には魔石が必要不可欠だが、残念ながら俺はその魔石の取り扱い方に精通していない。

幸いにも彼は魔道具のことが好きなようだし、手伝ってくれないかなぁと思ったのだ。


「この前エーリヒに見せた設計図のことなんだが、材料の魔石を取り寄せていざ試作に入ろうかと思ったんだけれど、残念ながら俺は魔石の取り扱いに精通していないんだ。だから良ければ君の力を借りれないかと思ってね」


「もちろんいいよぉー。僕もあの魔道具は気になっていたからねぇー」


 やったぞ。魔道具の扱いのスペシャリストの協力を得られた。

彼が力を貸してくれれば順調に設計が進むだろう。


「まずはその魔石を見せてくれないかなぁ。実物を見てどの用に加工するかを決めないといけないからねぇ」


 魔石は加工が必要なのか。

あの魔石は大きすぎて到底持ち運べる大きさではない(ロバートは除く)ので、魔石を保管してある城まで来てもらわないといけないな。

エーリヒに城まで来てくれるかと聞くと、快く了承してくれた。

グレースも構わないと言っているので、早速俺達は城に行くことにした。


 3人で馬車に乗って城までやってきた。

実はこの前から城の正殿の再建が始まっていて、今は工事の真っ只中だ。

俺達は建設現場の真横を通り過ぎ、魔石が積載されているトラックのもとに向かう。


 トラックの荷台のカバーをどかすと、大きな魔石が山積み姿を見せる。

これはコカトリスの魔石なので特に大きいのだ。

後ろを見ると、グレースとエーリヒは2人共固まっていた。


「エーリヒ、これがその魔石なんだけれども大丈夫?」


「ええっとぉ、僕が知っている魔石の何十倍も大きい気がするんだけれども気のせいかなぁ。僕の目がおかしくなっちゃっただけぇ?」


 ん? 知っている魔石の何十倍も大きい?

俺が島で入手した魔石は殆どがこれよりも一回り二周り小さいものだったが、それでも全然大きかった。

そんな何十分の1の魔石を残した魔物など存在しなかったぞ。


 じゃあこれほど大きい魔石はとても貴重なものなのかもしれない。

逆に言うと、このサイズの魔石の加工は難しいのかもしれないな。

そうなると計画が頓挫するからそれだけは避けたいものだ。


「もしかしてこの大きさの魔石は加工することが出来ないのか? 出来ないなら出来ないで諦めるから率直な意見を言って欲しい」


「いいや、逆にこれの加工に挑戦したくて仕方がないよぉ。でも本当に僕が加工してもいいのぉ? この大きさの魔石なら、普通に売れば莫大な金額のお金を得ることが出来るよぉ」


 これを売れば莫大なお金を手に入れることができる……か。

だがそれではお金を手に入れることができても蒸気タービンの設計は一向に進まない。

こちらから莫大なお金払ってでもお願いしたいぐらいだ。


「大丈夫だ。俺はどうしてもあの魔道具を完成させたいんだ。だからどうか引き受けてくれないか」


「……分かったよぉ。僕も全力を尽くして魔石の加工をさせてもらうよぉ。じゃあ早速その魔石を僕の屋敷な運んでくれるかなぁ。どれだけの時間がかかるか分からないけれど頑張るよぉ」


 ありがとうといって俺はエーリヒと握手をする。

そうと決まれば早速魔石を運搬しよう。

俺はトラックの運転手にエーリヒの屋敷に魔石を運ぶよういった。





 あれから2日、エーリヒは学園に来なかった。

何かあったのだろうかと思いながらも、彼が授業を休んでまでして魔石を加工しているのならば、邪魔をしないほうが良いだろうと判断して俺は彼の屋敷を訪れることはなかった。

今日ももう6時間目。彼は今も魔石を加工しているのだろうか。


 突如、教室のドアがすごい勢いで開く。

誰かと思ってみると、すごく汚れた服を着たエーリヒの姿があった。

急いで走ってきたのだろう、彼は息を整えた後に叫ぶ。


「ルフレイー! ようやく魔石の加工が終わったよぉー!」


 その言葉を聞いた時、俺は思わず飛び上がりそうになった。

魔石の加工ができた。それは蒸気タービン完成への大きな一歩となる。

俺は授業中であることも忘れ、エーリヒのもとに駆け寄った。


「本当かエーリヒ! 凄いよ君は」


 俺達がやったやったと喜んでいると、後ろに気配を感じた。

その気配に気が付き後ろを向くと、メリルが仁王立ちしていた。

しまった。今は授業中だった。


「2人とも、後でちょっと来なさい!」


 メリルに少し叱られ開放された後、俺達は馬車に乗ってエーリヒの屋敷に向かっていた。

エーリヒも他国の王族なので中々の屋敷だろうと思っていたが、実際の屋敷は俺の想像を超えた。

庭には立派な噴水があり、建物もどっしりとした構えだ。

皇帝という身ながら島では空軍基地の一室に寝泊まり、こっちに来てからは王城に居候している俺が虚しくなってくるよ。


 建物内に入ると、中の調度品の品質にも驚かされる。

下手したら王城の調度品よりも良いものを使っているのでは無いだろうか。

だがエーリヒはそんなことは一切気にせずに奥へと歩いていく。


 やがて彼は1つの部屋の中に入っていく。

俺達も続いて入ると、中はよくわからない道具で溢れた部屋だった。

エーリヒはその地獄絵図のような部屋の中から1つのものを取り出す。

彼の取り出した透明の石こそ加工された魔石であった。


「この魔石、大きさの割にはとても加工がやりやすかったし、いい経験になったよぉ。それじゃあ魔道具の完成、楽しみにしてるよぉ。あぁ後、あんまりないんだけれど魔道具に関する本をいくつか集めておいたから良ければ参考にしてねぇ」


 彼はそう言って魔道具に関する魔導書までくれた。

俺は彼に感謝の意を伝え、その本を受取る。


 さて、今度はこの魔石を王城まで輸送する必要がある。

加工された魔石の輸送方法だが、加工前と比べてサイズがだいぶん落ちたため屋敷の前で停車してある馬車までなら何とか俺1人での輸送が可能であろう。

そして他の2人は半分ずつ本を持ち、馬車の方まで歩いていった。


 馬車に荷物を積み終わり、俺達も馬車に乗る。

外ではエーリヒが手を振って見送りをしてくれた。

俺とグレースは手を振り返しながら彼の屋敷を後にした。





 王城についた俺は、早速研究を始めるべく用意を始めようと思った。

だがここで1つ発生する。

今ここで技士を召喚しても、彼らの働く場所がない。

俺はグレースに相談することにした。


「使っても良い余っている部屋ねぇ。あそこの倉庫なんかどうかしら? 今は誰も使っていないし、ある程度の広さもあるわよ」


 グレースが指したのは、城から少し離れたところにある巨大な空き倉庫。

あそこなら多少のむちゃをしても大丈夫かもしれないな。

ありがたく使わせてもらうことにしよう。


「じゃあしばらくの間あそこを使わせてもらうね」


 俺は倉庫の扉をガラッと開ける。

倉庫の中はもぬけの殻であったが、そこはこれから研究室へと生まれ変わるのだ。

俺は早速製図台など設計に必要なものを設置していく。


 だがまだまだスペースが空いていたので、俺はあるものを追加で設置する。

それはかつて日本の軍艦に広く搭載されていた蒸気タービン、いわゆるロ号艦本式缶である。

設計のときに資料として活用してくれたら良いな。


 後必要なのは設計担当者だな。

俺はMPを消費して技術者を10名ほど召喚する。


「召喚されて突然ですまないのだが、君たちにはこれから主に艦船搭載用の蒸気タービンの設計を行ってもらう。燃料の代わりに魔石を利用した新型のものだ。何を言っているのかさっぱりだと思うが、わからないことがあれば俺に聞くかこの本を頼りにしてくれ」


「では質問なのですが、その魔石とは一体どのようなものなのでしょうか」


 早速食いついてきたな。

技術者らしく、新しいものには何でも興味を示すようだ。


「魔石というのは、中に内包された魔力を様々なエネルギーに変換して利用できる便利なものだ。これがあれば石油などの燃料無しで水を加熱させることができるから、それを利用して蒸気タービンを作ろうと思ったのだ」


 俺が話している間にも、他の技術者たちは机の上においた魔道具に関する本を読み漁っている。

パラパラと目を通した後、彼らは何やらブツブツ言って考え込む。

やがて急にキラキラした目で俺の方を見、口を揃えてこういった。


「なんて面白そうなのでしょう! ぜひともやらせて下さい」


 食いつきが凄いな。

だがやる気があるのは良いことだ。


「よろしく頼むぞ。これより君たちを帝国技術研究部第一班所属とし、ここをその班の特別工廠とする。また、本計画にて設計する新タービンの計画名を試製マ号技研式タービンとする」


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