防御魔法を授かった次の日。
俺は早速防御魔法の特訓を始めることにした。
特訓と言っても、ただ魔法を展開する練習をするだけだが。
特訓にはグレースが付き合ってくれることになった。
「防御魔法は、魔力を利用して魔力の盾を展開、敵の魔法から自分を守るための魔法よ。自分の思い描く盾を頭の中に思い描いて、それから魔法を展開することによって魔法が成立するわ。とりあえずやってみたら良いわよ」
自分の思い描く盾……
俺は頭の中で自分を守ってくれる魔力の壁をイメージして魔法を展開する。
体内の魔力がほんの少しだけ抜けて、目の前に防御魔法が展開される。
展開されたのは黄色の八角形の連なった盾。
これでは流石にA◯フィールド過ぎて怒られてしまうからもう少し見た目を変えよう。
俺は丸い魔法陣のような盾を連想し、再び魔法を展開する。
しっかりとイメージ通りの盾が展開された。
「それで防御魔法の展開は完了よ。他の魔法には複数のバリエーションがあったりするのだけれど、防御魔法はただ魔力の壁を作り出して自身を防御するための魔法だからバリエーションはないわ。その分形を自分の思い通りにすることが出来るから柔軟性に富んだ魔法ではあるわね」
自由自在に魔法の形を変えれらるのは面白いな。
俺は魔法を同時に複数展開できないか試みてみる。
試みは成功し、俺の前に一直線上に防御魔法が多重展開された。
今度は展開した魔法を動かしてみよう。
魔法を自由に操作し、様々な形を作り出していく。
動かす際に形は円形よりも六角形のほうが様々な形を作り出すことが出来るので、形を六角形に変更してみる。
そうして六角形に変形させた複数枚の防御魔法を面上に整列させて、前面からの魔法を完全にシャットアウト出来るようにしたり、俺の周りにドーム型に展開させて全周囲からの魔法をシャットアウトできるようにしてみた。
まだ少しいじっただけだが、俺はこの魔法に早くも可能性を見出していた。
この形状を自由に変形することのできる性質は様々なことに応用できると思う。
そしてあわよくば攻撃にも転用できるかもしれないのだ。
試しに形をやりのような鋭い形状に変えてみる。
先に誰も居ないことを確認し、俺はそれを前に飛ばすよう操作する。
槍状になった防御魔法はそのまま高速で飛翔し、止まることを知らずに庭に生えていた木に突き刺さった。
「ルフレイ、あなたやっぱりとんでもないわね。そんなふうに防御魔法を扱うのは熟練した魔法使いでも不可能だわ。ましてや昨日魔法を行使できるようになったばかりの人間の所業じゃないわよ」
魔法を1つ1つ展開する際に魔力を消費するのだが、これだけの量を展開しようとするとこの世界の人間の魔力量ではすぐに魔力切れを起こしてしまう。
神に造られたという特異な存在である俺だからこそ成し得ることなのかもしれないな。
展開や変形に成功した次は、実際に使用する練習もしてみたいな。
どれだけ展開できても実戦で活用できなければ全く意味がない。
ここは1つグレースに一肌脱いでもらおう。
「なぁグレース。一発何でも良いから魔法を打ち込んでくれない? 防御魔法の強度を確かめたいからさ」
「別にいいわよ。じゃあ取り敢えずファイアーボールでいいかしらね」
グレースは俺から少し距離を取って立つ。
彼女は杖を構え、その先端を俺の方に向ける。
俺は防御魔法を多重展開し、俺とグレースの間に極厚の防御魔法の壁を作る。
これで準備は完了だ。後は何枚残ってくれるかだな。
「早速撃つわよー。ファイアーボール!」
杖から放たれた魔法は、1層目の防御魔法と衝突し、防御魔法を割って進む。
その後も立て続けに4枚の防御魔法を破り、6枚目で停止した。
俺は魔法を防げたことよりも思ったよりも魔法が破られたことに驚いた。
「うーん、思ったよりも突破されたなぁ。これはもっと展開する枚数を増やしてより守りを盤石にしないといけないなぁ」
ただ当たり前のことだが、展開する魔法の数が増えれば増えるほどそれの制御は複雑になる。
完璧な防御を目指すには魔法運用の効率化を図らないとな。
「ルフレイ、防御魔法の強度を上げたいのなら発動する際に込める魔力の量を増やせばいいわ。そうすればより魔法の強度も上がるわよ」
込める魔力の量か。
たしかにさっきは全く意識していなかったな。
取り敢えず一枚あたり20MP程を消費して展開してみようか。
俺は再び大量の防御魔法を展開する。
意識して多くの魔力を籠めたおかげか、先程と比べて防御魔法1枚1枚の厚さが明らかに厚くなっていた。
これならばどうだろうか。
俺はグレースに合図を送り、再びファイアーボールを発射してもらう。
グレースから放たれたファイアーボールは、先程と同じく第一層に衝突する。
だが先ほどとは異なり、一層目の防御魔法が割れることはなかった。
少し多くの魔力を加えるだけでこれほど防御力が変わるとは。
俺は改めて魔法とは面白いものだと思った。
「あなた一体どれだけの魔力を込めたのよ。さっきとは防御力が桁違いじゃない」
よし、これで実戦にも耐えうる防御魔法が形成出来るようになったな。
そういえば防御魔法は銃火器の防御にも使用できるのだろうか。
ものは試し、気になったのならやってみよう。
俺はスキルを使って銃を召喚する。
今回召喚したのは三八式歩兵銃。有坂銃の名前でも知られる日本の名銃だ。
俺は銃弾を込めて槓桿を引き、安全子を外す。
防御魔法群を人のいない方に向け、俺は銃をそれにめがけて構えた。
狙いを定めた後、俺は引き金を引く。
ダァンという音とともに銃口から弾丸が放たれ、防御魔法の第一層に到達する。
銃弾が層に接触した瞬間、防御魔法は粉々に砕けた。
残りの防御魔法も全て突破し、銃弾はあさっての方向に飛んでいった。
「すごい攻撃……汎用スキルではないみたいだし、それがあなたの固有スキルなのね。強力な防御魔法に強力な攻撃スキル。ルフレイ、あなたは一体何者なの?」
転生者です……とは到底言えないな。
いつか話す時が来るかもしれないが、今は黙ったままでおこう。
何よりも防御魔法は完全にマスターした。
今後どんな場面で使用するのかはわからないが、強力なスキルを身につけれて万々歳だ。