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第36話 鍛錬あるのみ

 櫂野大佐を送り出した後、俺達は昨日と同じように馬車で学園に向かっていた。

俺が馬車に揺られていると、グレースが話しかけてきた。


「そういえばルフレイはまだ魔力回路の形成が終わっていなかったわね。魔力回路の形成には時間がかかるから、今日から形成のための鍛錬を始めましょうか」


 魔力回路、これがなければ魔道具に魔力を伝えることができなかったり、魔法の行使が不可能など様々な問題が生じる。

魔力回路もない俺がなぜ固有スキルを発動できるのかは謎だが。

それに形成には時間がかかるのか。これは根気がいりそうだ。


「鍛錬の内容はいたってシンプルよ。ただただ体内の魔力を探そうとして、体内に不思議なもやもやがあるのを見つけれたらそれを魔力としてのイメージで捉えるだけよ。簡単そうに見えるいっぽう、いかに魔力を自分なりに解釈し認識することが出来るか、つまり想像力が重要になってくるわね。そしてもしも魔力回路の形成に成功したら、体の内側から力が湧いてくるような気分になるわ」


 なるほど、体内のもやもやか。

試しに意識してもやもやを探してみよう。

じっと探していると、案外そのもやもやはすぐに見つかった。


 体内に渦巻く巨大な力のうねりのようなものがそこには感じられた。

もやもやを見つけたら、次にすることは魔力の解釈と認識か。

試しに、大きな波のイメージを魔力につけてみたが、体内から力が溢れ出してくるような感じは一切しなかった。


 その後も水や火、風、電気などのイメージを付けてみたが、内側から力は感じられなかった。

想像力が大事だと行っていたが、地球の理や法則に脳が縛り付けられていて、柔軟な想像を邪魔しているのかもしれない。

学園に着くまで俺はずっと鍛錬をしていたが、ついに形成に成功することはなかった。


 その後、俺は授業中や食事中も、学校にいる間中ずっと魔力のイメージをしようとしていた。

授業で先生が何を言っているのかさっぱり聞いていなかったがたぶん大丈夫だろう。

挙句の果てにはメリルの授業中に居眠りをしていると勘違いされた。

失礼な。俺はただただ熟考していただけなのに。


 結局、俺は学園にいる間に魔力をイメージとして捉えることは出来なかった。

学校から帰っている馬車の中で俺はメリルに「そう簡単に出来るものではない」と慰められたが、俺は逆に悔しかったのでもっと努力をしようと思った。


 王城に帰ってからも俺は魔力を捉えようとしていたが、進展はなかった。

食事が終わり部屋に帰ってから、俺は寝る時間も惜しんで意地でも魔力を捉えらえてやろうと思った。

椅子に座ってじっと考えていたが、俺は結局そのまま寝落ちしてしまった。


 その後、俺は2日間を魔力のイメージに時間を費やした。

今は実践魔法の授業中だが、俺は相変わらず魔力のイメージをしようと奮闘している。

だが既に疲労が溜まっており、イメージの対象もネタが底を付き始めた。

もはや答えは誰にもわからないんじゃないかと思うほどに多くの案を考えたが、どれも合致するものはなかった。


 「もはや単語は全て入れたんじゃないのか。こうなったらもう実在の物質ではなく概念を入れてやろう」


 俺は試しに魔力にエネルギーの概念を当てはめてみた。

特に熱エネルギーや運動エネルギーなど様々なエネルギーに変換されるようなイメージである。

これはなけなしの答えであったが、奇跡的に回路が形成されたようだ。

体の内側から猛烈な勢いで力が湧き出てくるのが感じ取れる。


「おぉ、ついに出来たぞ! これが魔力回路が形成できたということか。確かに体の内側から不思議な力が湧いてくるのが分かる」


 試しに、俺は近くにあった授業に使う魔道具に手で触れてみた。

体内から魔力が流れていき、魔石に信号を与える。

そして魔道具から水が吹き出した。


「え、ルフレイ。もしかしてもう魔力回路が形成されたの? 普通は子供の頃からずっとやって3年位かかるのに。あなたって本当に何者なの?」


「いや、グレースのおかげだよ。君が魔力回路の存在を教えてくれなければ、俺は一生形成せずに終わったと思うからね」


 魔力回路の形成方法も自力では気づくことが出来なかったであろう。

本当にグレースには感謝である。

これで魔道具の扱いも可能になったから、魔石式蒸気タービンの開発を始めれるな。

だがまだ櫂野大佐が帰ってきていない。何かあったのだろうか。


「じゃあ次は教会に行ってお祈りしないとね。幸い明日は学園も休みだから行けるわ。そうすることでどんな汎用スキルを使えるのかを知ることが出来るのよ」


 俺もついに汎用スキルが使えるようになるのか。

どんなスキルがもらえるのかは分からないが楽しみだ。

だが、イズンが転生の際にはくれなかったから、本当にもらえるのかは少し怪しいところではあるが。


 そうしていると授業終了の鐘がなり、俺達は片付けをして迎えの馬車を待つ。

やってきた馬車に乗り込み、俺達は王城へと帰宅の途についた。





 王城の門をくぐると、見慣れた車が止まっていた。

黒塗りのクラウン、俺が櫂野大佐用に召喚したものだ。

これがとまっているということは、輸送作戦は成功したのだろうか。

俺が建物内に入ると、早速櫂野大佐が顔を出した。


「司令、『松輸送作戦』成功致しました。輸送した物資はまだトラックに積んであります。ぜひご確認下さい」


 彼は俺をトラックの元へと案内する。

トラックの中を見ると、大きな魔石がビッチリと詰まっていた。

この大きさはコカトリスのものだろうか。

皆んな頑張ってくれたな。


 他のトラックにも魔石が大量に詰められており、1つだけに魔物肉が積まれていた。

あんな物食べれないだろうと思っていたが、しっかりと処理されて肉塊となった今の姿を見れば食べれないこともないのかもしれないな。

これは明日の晩御飯にでも使ってもらおうか。


「ところで、戻ってくるのが少し遅かったけれども何か問題でもあったの?」


 俺がそう聞くと、彼はバツの悪そうな顔をした。

「怒らないから話してみなさい」と言うと、「本当に怒りませんか?」と聞いてきたので、「怒らない」とこたえると、彼は恐る恐る話し始める。


「実は魔物の肉のことなのですが、小隊員が魔物の肉を運び出すことを不思議に思い、食べれるのではないかとひとくち食べたんです。するとかなり美味しかったようで用意していた分を全て食べてしまい、もう一度狩り直す羽目になったのです」


 なるほどね、そういう理由だったか。

危険な目にあったということでないなら何よりだ。


「お詫びではないですが、小隊の人間たちが見つけた美味しい木の実を一緒に入れていたようですので、良かったら食べて下さい」


 櫂野大佐から報告を聞き終わった後、俺達は肉を厨房に運びこんだ。

厨房の人たちはえらくびっくりしていたが、明日のご飯にでも使ってくれと言うと「まかせてくれ」と自信満々に答えてくれた。

明日のご飯が楽しみだ。


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