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第34話 王城に居候で候

 魔道具の組み立てが終わり、手間取っていたグレースの手伝いをしていると、ふとあることを思いつく。

このバーナーの魔道具は魔石に籠められた魔力を放出する形で炎を放っている。

つまりは燃料無しで炎を作り出すことが出来るのだ。


 そしてこの性質は、地球人類の繁栄を後押しした蒸気機関にも利用できるのではないだろうか。

蒸気機関が完成すればこの世界の文明は大きく発展することになるだろう。

そう考えると、居ても立っても居られなくなっていた。

俺は素早くグレースの分を組み立て、紙に設計図を描くべく向き合った。


 幸いにも、昔に科学の本で蒸気タービンの設計図を見たことがあり仕組みは何となく覚えていた。

それの燃焼部分を魔石に置き換えたものを設計するのは何とか出来そうだ。

タービンの図示などに苦労しながらも、着々と設計図は完成していく。


 夢中になって描いている俺の設計図を不思議そうにグレースが覗き込む。

既に殆どが描き終わっているが、いかんせん素人の描いた図なので見にくい。

蒸気機関を知っている地球人ならともかく、この世界の人間であるグレースには理解できないであろう。

やはり、グレースは首をかしげ、腕を組んで考え込んでいる。


「よし、出来たぞ!」


 描き始めること数十分、既に6時間目の授業が終わろうとしている中、ついに俺は設計図を描き終えた。

我ながら分かりにくい図だと思うが、勘弁してほしい。

これを実用化して王国などに売り込んだら、俺は大金を手に入れることができるかもな。

まぁこれを俺の技術で完成させることは不可能だ。

海軍基地の工廠が完成次第、工廠の技術者に研究を始めてもらおう。


「お疲れ様……と言いたいところだけれど、落書きせずにちゃんと授業は受けてちょうだいね」


 横を見ると、いつの間にかメリルが立っていた。

声は優しいが、顔は笑っているのに怖い。

俺が謝ると、彼女は次からは気をつけてねと言い、俺の設計図を覗く。


「これは設計図ね、でも何の設計図かわからないわ。一体あなたは何を設計したというの?」


「これは蒸気タービンと言われる装置です。魔石の熱で水が高温高圧の水蒸気となり、内部に組み込まれているタービンを回します。その回る力を用いて船の動力などに利用できます」


 ここを水蒸気が通ってー、タービンを回してー、ここで水蒸気が冷えて水に戻ってーと説明すると、メリルは納得するように頭を縦に振りながら話を聞いていた。

しばらくブツブツと一人で考えていると、急に顔をバッとあげ、俺をじっと見つめた。

その目は初めてのものを見た子どものようにキラキラと輝いていた。


「この魔道具凄いわね! もしもこれが完成すればこの国、いや大陸中に革命が起こるわ!」


 メリルは蒸気タービンの有用性を理解できたようだ。

流石は王立学園のSクラスの授業を任される教師なだけはあるな。

グレースは俺たちの会話には付いてこられずポカーンとしていた。


 そうしていると、授業終了の鐘が鳴った。

初授業はかなりいい感じだったな。

俺は最高学年への編入だったので、後1年もしないうちに卒業だが、それまで楽しく学園生活を送ろう。


 俺とグレースは荷物をまとめ帰ろうとしたが、不意に声をかけられる。

背の低い、頭に立派な角の生えた幼く見える男がそこにはいた。

見た目からして彼は魔族なのだろうか?


 襟にSクラスを表す校章をつけているので、同じクラスの生徒だろう。

俺に何の用だろうか。


「さっきメリル先生が何か絶賛していたよねぇ。良かったら僕にも見せてくれないかなぁ」


 俺の描いた魔石式蒸気タービンに興味があるとは。

見られて困るものでもないので、俺はカバンの中から設計図を取り出し見せてあげる。

彼はしげしげと設計図を眺め、ほうと息を吐くと設計図を俺に返してきた。


「こんな魔道具、考えたこともなかったよぉ。僕は学園一魔道具が好きで、魔道具に精通していると思っていたんだけれども、それを上回る人も居るんだねぇ。あ、僕はエーリヒっていうんだぁ。これからクラスメイトとしてよろしくねぇ」


 そう言い残すと、彼は去っていった。

彼は魔道具が好きだと言っていたな。

魔石式蒸気タービンの完成のために必要な知識を持っているかもしれない。

今後仲良くしていけたら良いな。


「はえー。まさか彼の方から話しかけてくるとはね。彼はいつも1人でいてあまり人と話している姿は見ないのに。あ、ちなみに彼の本名はエーリヒ=フォン=ミトフェーラ。ミトフェーラ魔王国の魔王の弟よ」


 このクラスにはそこら辺に王子やら魔王の弟やら王族関係の人がいるな。

元の世界では絶対にありえないことだ。

まぁ俺もイレーネ帝国という帝国の皇帝になったから人のことは言えないが。


 俺たちは再び校門に歩きだすと、学園の敷地内の建物に複数の生徒を見つけた。

よく見てみると、制服ではなく私服を着用している生徒がでてきている。

あそこはいわゆる寮だろうか。

そういえば俺が何処に住むかまだ決めていなかったな。


「彼らは寮生ね。通学できないほど遠くに住んでいる生徒や、他国の生徒が共同で生活しているわ。とはいっても、他国の王子クラスでは自前の屋敷に住むのがメジャーだけれどね」


「俺は屋敷なんて持っていないからなぁ。寮に入寮したほうが良いかな」


 寮で共同生活というのも中々に楽しそうだ。

それにいつまでもグレースの王城に住み込むわけにもいかないし。

彼女も内心は早くでていってほしいと思っているだろうし。


「何を言っているのよ、あなたは私の王城に居候すればいいじゃない。それにあなたは皇帝なんだから、もしも寮内で何かがあったら大変でしょう」


 そんなことを言われたらいつまでも居候してしまうぞ。

ご飯は美味しいし、ベッドはフカフカだからな。

あんな充実した生活をずっと送りたいものだ。


「そうだわ。だったら居候の対価として弟のカールといっしょに遊んであげてくれないかしら。あの子、実の父は投獄され、兄は逃亡し、母と姉の私は別の建物で暮らしているから寂しい思いをさせてしまっていると思うの」


 確かに、今日の朝グレースと俺が一緒に朝食を食べると聞くと、凄い羨ましそうな顔をしていたな。

昨日の夕食のときも居なかったし、軍務卿の言っていた決まりにずっと縛られているのか。

少しかわいそうだし、彼の思いを少し伝えてあげようか。


「分かった。その依頼を引き受けるよ。そういえば朝カール君にあったのだけれど、『グレースお姉ちゃんといっしょにご飯が食べたいよー』って言っていたぞ。たまには一緒に食べてあげたら?」


「あら、既にカールにあったのね。というかあの子そんなこと言っていたのね。そうねぇ、今日は久しぶりに一緒にご飯を食べようかしら。お父様も居なくなったことだし、少しぐらいは決まりを破ってもいいわよね」


 カール、良かったな。

皆んなで夜ご飯を食べることが決まり、迎えの馬車がやってきた。

俺たちは馬車に乗り、王城へと帰る。


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