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page.147

その《泉美》という名前の女の子は、あまりの驚きに身体を酷く強張らせながら、もう一度下を向く。



『あ…あの、ほ…ほんとにごめんなさい…。有名な金魚さんだったとは私知らずに…つい金魚さんの大切な帽子に…つい出来心で…触れてしまいました…』



本当に丁寧に、頭を下げて謝る泉美という子。僕はその子をじっと見た。



『泉美は、ちょっとだけ指でつついただけなんです!私からもごめんなさい!だから許してあげて!お願い!』



僕は、その隣の女の子も見る。なんでそんなに、必死そうに僕や詩織に謝ってるんだろう…。


僕らがそんなに怖く見えた…?


泉美という子は…ちゃんと見れば身なりもとても清楚だし、振る舞いだって一つ一つが丁寧だし…どう見ても悪い子には絶対見えない。

顔だってかなり可愛いし…ってのは、説明不必要な余談。


確かに、この帽子は世界に一つだけの大切な帽子。こいつは汚れたら…って秋良さんは言ってたけど…でも触れたって言っても指でつついた程度。なんてこともないじゃん。


なのに…なんだか見てて、こんなに懸命に謝ってる泉美ちゃんが、もの凄く可哀想に思えてきた…。


…帽子かぁ。



『ねぇ、泉美ちゃん。この帽子さぁ…』


『えっ!あ…は、はい』



泉美ちゃんが僕の話し掛けに応えて、恐る恐るゆっくりと顔を上げる。

そのやり取りを黙ってじーっと見てる詩織。



『帽子…ほんとに可愛いって思う?』



…できるだけ優しく、泉美ちゃんに微笑んであげながら、そう訊ねた。



『あ…はい。とても珍しいなぁって思うし、ほんとに可愛…えぇっ!?』



僕は帽子を脱ぎ、泉美ちゃんの頭にそっと被せてあげた。



『えっ!?…えっ…』



更に増して驚いてる泉美ちゃん。



『金魚!?…ちょっと!』



突然のことに、詩織だって驚いてる。でも僕は詩織のそれに応えず、詩織ちゃんの髪を直してあげながら優しく言った。



『…あげるわけじゃないんだ。ごめんね。この横断歩道を渡り切るまでの間だけ、貸してあげようかな…って思って』


『えっ…い、いいんですか!?』


『うん』



そして、僕は泉美ちゃんの髪を整え終…あぁ。


…ほんとに…なんで僕はこんなに不器用なんだ…。髪を整えてあげようと、触れば触るほど…余計に髪型がどんどん乱れる…。



『きゃははは。んもぅ。金魚ったらほんっとに不器用ね。ほら金魚…ちょっと私に代わって』



…ってことで詩織と交代。


詩織も笑顔を見せながら…今朝、僕の髪を手直ししてくれたように、帽子を被った泉美ちゃんの髪も、両手で優しく綺麗に直してゆく。









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