その《泉美》という名前の女の子は、あまりの驚きに身体を酷く強張らせながら、もう一度下を向く。
『あ…あの、ほ…ほんとにごめんなさい…。有名な金魚さんだったとは私知らずに…つい金魚さんの大切な帽子に…つい出来心で…触れてしまいました…』
本当に丁寧に、頭を下げて謝る泉美という子。僕はその子をじっと見た。
『泉美は、ちょっとだけ指で
僕は、その隣の女の子も見る。なんでそんなに、必死そうに僕や詩織に謝ってるんだろう…。
僕らがそんなに怖く見えた…?
泉美という子は…ちゃんと見れば身なりもとても清楚だし、振る舞いだって一つ一つが丁寧だし…どう見ても悪い子には絶対見えない。
顔だってかなり可愛いし…ってのは、説明不必要な余談。
確かに、この帽子は世界に一つだけの大切な帽子。こいつは汚れたら
なのに…なんだか見てて、こんなに懸命に謝ってる泉美ちゃんが、もの凄く可哀想に思えてきた…。
…帽子かぁ。
『ねぇ、泉美ちゃん。この帽子さぁ…』
『えっ!あ…は、はい』
泉美ちゃんが僕の話し掛けに応えて、恐る恐るゆっくりと顔を上げる。
そのやり取りを黙ってじーっと見てる詩織。
『帽子…ほんとに可愛いって思う?』
…できるだけ優しく、泉美ちゃんに微笑んであげながら、そう訊ねた。
『あ…はい。とても珍しいなぁって思うし、ほんとに可愛…えぇっ!?』
僕は帽子を脱ぎ、泉美ちゃんの頭にそっと被せてあげた。
『えっ!?…えっ…』
更に増して驚いてる泉美ちゃん。
『金魚!?…ちょっと!』
突然のことに、詩織だって驚いてる。でも僕は詩織のそれに応えず、詩織ちゃんの髪を直してあげながら優しく言った。
『…あげるわけじゃないんだ。ごめんね。この横断歩道を渡り切るまでの間だけ、貸してあげようかな…って思って』
『えっ…い、いいんですか!?』
『うん』
そして、僕は泉美ちゃんの髪を整え終…あぁ。
…ほんとに…なんで僕はこんなに不器用なんだ…。髪を整えてあげようと、触れば触るほど…余計に髪型がどんどん乱れる…。
『きゃははは。んもぅ。金魚ったらほんっとに不器用ね。ほら金魚…ちょっと私に代わって』
…ってことで詩織と交代。
詩織も笑顔を見せながら…今朝、僕の髪を手直ししてくれたように、帽子を被った泉美ちゃんの髪も、両手で優しく綺麗に直してゆく。