『…はい。これで…うん。終わりね』
『あ…ありがとう。詩織ちゃん』
すっかり笑顔の詩織。髪の手直しを済ませて、泉美ちゃんに語り掛けた。
『うん。可愛い』
『あははは…嬉しい』
泉美ちゃんも本当に嬉しそう。
『…この羽根いっぱいのシルクハットはね、私と金魚の大切なお友達、2人の手作り帽子なの』
『えぇっ!?これ、手作りなの!?凄ーぃ…』
『うん。でしょ。世界中のどこにも売ってない、1つしかないシルクハットなんだから。ちなみに、私のこれ…このミニシルクハットもね』
僕は歩行者用信号機のデジタル表示のタイムカウントを確認した。
『詩織、泉美ちゃんたち…もうすぐ歩行者用信号機、青に変わるよ。あと10秒』
『あ、はーい』
そして…歩行者用信号が青に変わったのを確認して、僕ら4人は横断歩道を渡りはじめた。
『…泉美いいなーぁ。そんな凄い帽子を借りられて』
『真穂、ねー。いいでしょ。えへへっ』
ほんとに嬉しそうな泉美ちゃん。横断歩道の途中ですれ違う女の子たちも、
泉美ちゃんは笑顔もぱっと明るいし、やっぱり貸してあげて良かったなぁって思える。見ていて僕も気持ちがすっきりして軽くなる。
『ねぇ。私と金魚は今から、アンプリエにバレンタインチョコを買いに行くところなの。泉美ちゃんたちは?』
『私たちもです。アンプリエにチョコを買いに』
『ねぇ!じゃあ私たち、4人で一緒にチョコ買おうよ!』
『えっ!!…いいんですか!?』
急に横断歩道の真ん中で立ち止まりかける泉美ちゃん。それに合わせて詩織は軽く振り向いた。
『うん。いいでしょ?一緒にチョコ選ぼう』
考えてみると…僕が詩織以外の女の子と、こんなに親しく話すのって…今までに…ってか初めてだ。
『ねぇ…ってゆうか、今日もいい天気で気持ちいいねー。太陽が凄く眩しい…』
アンプリエの立派な黒い大理石調の入り口を、僕はまた見上げながら中に入る…。
だだっ広くて天井もビビるほど高いロビーは、その殆どが既に、ブランド各社が出店するバレンタインチョコの特設販売会場となっていた。
女の子たちの数と密度、わーわーきゃーきゃーって賑わしさも半端じゃない。
『…ねー。女の子の数ほんと凄いね…あ!ほら、あそこのお店のチョコ、良さそうじゃない?』
『あのブランド、ちょっと見たことあるかも…です』
女の子の数のそれに全く怯まない詩織ら《女の子3人組》は、どんどんと賑わいの奥へと入ってゆく。そのあとを追う僕。
『…この12個入りの、ハートとか花の形したカラフルなチョコ、可愛くて良くないですか?』
『あ!待って…そっちのミニチョコケーキも良さそうなんだけど』
『あの《9種類のフルーツチョコ》ってのも私、いいと思います』
『へぇ…美味しいよねー。9種類のフルーツチョコ。いいかも』
『あっちのお店は?どうです?』
『うん。行ってみよ』
…あの。僕は…もうどれでもいいかと思います…。だってチョコはチョコじゃん…。どれも…。