僕はあの古めかしいラーメン屋で、ネギ塩ラーメンを
『…ねぇ、いつもここでラーメン食う時は、ネギ塩ラーメン頼むの?』
『…。』
僕より若い謎のこの男子は、ちょくちょく僕に話し掛けてくるけど…僕はそれに応えず、黙々とラーメンを食べ続けている。
『あのさぁ、俺さっきから喋ってんだからさ、なんか反応してよ』
…なんて言われたから、僕は願われたとおり反応して訊き返してやった。
『なんで僕は…君と向き合って座って、ラーメン食べてんの!?』
『あははは』
…ったく。あはははじゃないよ…。
『俺ね…君と#すれ違ったときに、ふと微かに香りがしたんだ』
『香り?』
『うん。香水の香りだよ。たぶん…エリザベスアーデンの…あれは…スプレンダー。どう?当たってる?』
げっ!!…エリザベスアーデン!?
…しかも商品名まで言い当てるとか…!
それは最近、いつも女装したときに、アンナさんが耳の後ろや両手首にかけてくれる香水だ…。
この若い男子…絶対ただ者じゃない!!
『…だっておかしいじゃん。オトコから女の香水の香りがするってさ。でも高級ないい香水を使ってるね。いいなぁ』
『…あの…』
『それだけじゃないよ』
『えっ!?』
『あ…ごめん。ちょっと水、もう一杯汲んでくる』
でも…よく考えてみると…《僕とすれ違った》あとに僕の左腕を掴んでたんだから…つまり《一旦すれ違って、あとから追い掛けてきて僕の腕を掴んだ》…ってことになる…。
僕は、彼がコップに水を汲んで席に戻ってきたことに、すぐには気づかなかった。
『…でさ、話の続きなんだけど…君の顔の艶…ってか、潤い整った綺麗な顔の肌目を見てさ、間違いなく化粧後の…』
『…あの!』
『あっ?…なに!?』
僕の一喝するような一声に、彼の語り話も鮮やかに途切れた。
『ほんとにさ…君って何者?』
『…へへっ。俺ん家来る?そしたら一目で全てが理解できるかもよ』
僕は彼と…キツい真剣な視線を交わらせて睨み合った…。
『…わかった。ラーメン食べ終わったら、家に案内してよ』
午後8時を少し回った頃だろうか…。
僕らはとある古臭いマンションの3階…錆びた鉄製の扉の前に立っていた。
…さっき、ここに来るまでの電車の中で知ったこと。それは、彼が僕より2こ歳下の《17歳》であること…高校には行ってなくて、もう働いてるってこと…名前は桑野忠彦。
最近、藤浦市に引っ越してきたってこと。そして…。
『さ、さっきは…ラーメンご馳走さま…』
歳下の彼に、ネギ塩ラーメンを奢ってもらってしまった…ってこと。情けない…。
ガチャガチャ…ギィィィィ…。
鍵を回し、錠を開けて響く鉄製の扉の