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page.150

僕はあの古めかしいラーメン屋で、ネギ塩ラーメンをすすっていた。



『…ねぇ、いつもここでラーメン食う時は、ネギ塩ラーメン頼むの?』


『…。』



僕より若い謎のこの男子は、ちょくちょく僕に話し掛けてくるけど…僕はそれに応えず、黙々とラーメンを食べ続けている。



『あのさぁ、俺さっきから喋ってんだからさ、なんか反応してよ』



…なんて言われたから、僕は願われたとおり反応して訊き返してやった。



『なんで僕は…君と向き合って座って、ラーメン食べてんの!?』


『あははは』



…ったく。あはははじゃないよ…。



『俺ね…君と#すれ違ったときに、ふと微かに香りがしたんだ』


『香り?』


『うん。香水の香りだよ。たぶん…エリザベスアーデンの…あれは…スプレンダー。どう?当たってる?』



げっ!!…エリザベスアーデン!?

…しかも商品名まで言い当てるとか…!


それは最近、いつも女装したときに、アンナさんが耳の後ろや両手首にかけてくれる香水だ…。


この若い男子…絶対ただ者じゃない!!



『…だっておかしいじゃん。オトコから女の香水の香りがするってさ。でも高級ないい香水を使ってるね。いいなぁ』


『…あの…』


『それだけじゃないよ』


『えっ!?』


『あ…ごめん。ちょっと水、もう一杯汲んでくる』



でも…よく考えてみると…《僕とすれ違った》あとに僕の左腕を掴んでたんだから…つまり《一旦すれ違って、あとから追い掛けてきて僕の腕を掴んだ》…ってことになる…。


僕は、彼がコップに水を汲んで席に戻ってきたことに、すぐには気づかなかった。



『…でさ、話の続きなんだけど…君の顔の艶…ってか、潤い整った綺麗な顔の肌目を見てさ、間違いなく化粧後の…』


『…あの!』


『あっ?…なに!?』



僕の一喝するような一声に、彼の語り話も鮮やかに途切れた。



『ほんとにさ…君って何者?』


『…へへっ。俺ん家来る?そしたら一目で全てが理解できるかもよ』



僕は彼と…キツい真剣な視線を交わらせて睨み合った…。



『…わかった。ラーメン食べ終わったら、家に案内してよ』







午後8時を少し回った頃だろうか…。

僕らはとある古臭いマンションの3階…錆びた鉄製の扉の前に立っていた。


…さっき、ここに来るまでの電車の中で知ったこと。それは、彼が僕より2こ歳下の《17歳》であること…高校には行ってなくて、もう働いてるってこと…名前は桑野忠彦。

最近、藤浦市に引っ越してきたってこと。そして…。



『さ、さっきは…ラーメンご馳走さま…』



歳下の彼に、ネギ塩ラーメンを奢ってもらってしまった…ってこと。情けない…。


ガチャガチャ…ギィィィィ…。

鍵を回し、錠を開けて響く鉄製の扉のきしむ音。静かな夜のマンション内全域に響き渡る…。








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