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page.153

何も知らない僕は《化粧ができる》という特有技術は、女性だけのものだと思ってた。

だけど今…当に目の前で、丁寧に丁寧にメイクしているのは忠彦くん…紛れもなく《男性》だ。


…メイク前に乳液で素肌の肌理きめを整えてから、ファンデーションとフェイスパウダー、コンシーラー…そして頬に淡いピンクのチーク…細い眉を描き整え…付けまつ毛を上瞼うわまぶたに貼り付けてアイライナー…ビューラーとマスカラ…。


特に今…忠彦くんが上体を前へと倒し、三面鏡へ顔を近付かせて唇にグロスを塗っているその姿を見ていたら…なんだろう…複雑な心境に胸をぐっと締め付けられた…。



『…うーん。どうかな…よしっ。今夜はこれぐらいでいいかな…と』



メイクに掛かった時間…約35分。

三面鏡に顔を近付けたり離れたり、少し斜めを向いてみたり…しっかりとメイクの出来栄えを確認し、最終チェックを済ませて…。


忠彦くんは立ち上がって、隣の小さな和室へとタタタッと駆けて消えていった…?








『…お待たせー。どう?メイクした俺の顔』


『!!』



和室から出てきた忠彦くん…本当だ。メイク後の顔は…鼻筋が通ってて、目なんか大きくて切れ長で…詩織や僕の女装した金魚みたいな《可愛い系》とは反対に、大人びた凄い《綺麗系》…。


強いて言えば…アンナさんやナオさんを、そのまま若くしたような超美人顔。

あまりの綺麗さに、僕はしばらく目が釘付けになって、言葉を失ってた…。


ロングの髪がふわっとしたウィッグを被り、白いTシャツの上を、コートで身を包んで…脚部は何も隠さず、太ももは半分以上まで素肌を露わに見せている。



『足のすねなんて…ほら、見てよ。永久脱毛してツルっツル』



しゃがみ込んで、艶のある両足のすねをスリスリして見せる忠彦くん。



『俺は…私は、こんなこと言うの変だけど…この女になった自分の顔が、どんな女の子よりも好きになった…この顔に恋したんだ。だから…』


『あの…』


『なに?』



しゃがんだまま、忠彦くんは顔を上げて僕を見た。



『僕は…メイクのできる忠彦くん、本当に凄いと思う』



何も言わず…黙って僕を見てる…。



『さっき、忠彦くんにも指摘されたけど…僕は本当はメイク、できないから…。いつもメイクの先生に、メイクやってもらってるんだ…』



メイクの先生…なんて言い方したけど、もちろんアンナさんのことだ。



『つうかさ、信吾くんは何のためにメイク…ってか女装してんの?』


『…えっ!?』



つい間が抜けてて…そう訊かれることを予測できなかった…。

忠彦くん…《復讐のため》なんて聞いたら…どう思うだろうか…。


彼だって《金魚》の噂や存在くらい知ってるかもしれない。そう仮定して、もし金魚が僕だと知ったら…。


どうしよう…迷う…。









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