僕は…その後も続いた彼女の言葉に、強い衝撃を全身に受けた。
本物の女の子たちには絶対に負けたくない。だから誰かの助力は一切求めない。
自信はある。文句は絶対言わせない。
毎日毎日…懸命に努力に努力を重ねて得た、この繊細で的確な独学メイクの技術だけは…。
…紛れもない "本物" だから…!!
『つかさ…もうすぐ午前0時だけど…信吾くん、終電の時間とか大丈夫?帰れる?』
『…えっ!?』
えー…帰れるわけない…。
地下鉄の終電時刻は知らないけど、僕の乗る電車の終電は、確か…午前0時3分が最終発車時刻だったはず…。
『あっはははは。じゃあ、こんな狭苦しい俺の部屋でも良ければ…ひと晩泊まってく?』
『あ…お願いします』
僕はうんうん頷いた。
忠彦くんは自作化粧室の真ん中に、和室の押入れから引っ張り出してきた分厚い敷布団を敷き、毛布2枚と羽毛掛け布団を用意して…枕の代用に、うつ伏せ寝姿の大きなリラックマの縫いぐるみを置いた。
『俺はクレンジングして、メイクを落としたら和室で寝るから。トイレは廊下の左。あ、あと浴室と洗面所は右だし。シャワー浴びたかったら朝にしてくれる?あと喉が乾いたら…』
あの…いろんな説明ありがとう。ただ、細かくて長かったけど…。
…あれから1時間くらい経っただろうか…。和室の忠彦くんはもう、ぐっすり寝てるんだろう。音もなくシーンと静まり返っている。
見上げれば、天井から吊り下げられた照明器具…今は常夜灯のLED球が青く光っている。
おかげで部屋中が青く染まり、まるで海の中にいるみたい…落ち着く。
…これいいなぁ。僕もアパートの部屋の豆球、この青色にしよう。
手作り三面鏡…机の上でキラキラしてる、たくさんの香水のガラス小瓶…中には化粧道具がびっしり入れられて、綺麗に片付けられている小ダンス…。
忠彦くんは、この部屋でどれだけ頑張ったんだろう。相当頑張った…ってのは、忠彦くんの話からも、この部屋の様子からも十分想像できる…。
どれだけ頑張ったら、あんな丁寧で上手いメイクができるようになるんだろうか…。
…それにしても今日は…いや、正しくは《昨日は》ってことになるけど…色々あった…。
朝は秋良さんが、あの白羽毛のシルクハットを持ってきて…それを頭に被って詩織とアンプリエに行ったことで、泉美ちゃんたちと出会い…アンナさんの美容院からの帰りの途中、新井早瀬駅で忠彦くんに捕まり…今に至……。
『………んぁ?』
『おー。あははは。タイミング良く信吾くんが起きた。トースト焼いたけど食べる?朝食。温かいミルクココアもあるよ』