2月第2週の日曜日。時刻はたぶん…今、9時35分頃のはず。
僕は今、忠彦くん家から電車に乗り帰宅中。いつもと変わらず電車のドアの前に立ち、いつものようにガラス窓から外を眺めている。
今日の天気は午後から雨だって言ってた…忠彦くん家のテレビが。
なるほど…空はどんよりと暗く、今にも降ってきそうだ。
忠彦くん家で食べた朝のトースト。飲み物はホットココア。
『あ…冷蔵庫にプリンが1個ある…食べる?信吾くん』
『えっ、いいの?…ありがとう』
その時ふと《なにかプリンのお返しとかできないかな…あ!チョコは?どうだろう》と考えて、買ったバレンタインチョコの入った白い紙袋を手に取った。
『そういえばその紙袋…何が入ってんの?』
『バレンタインチョコ…食べる?忠彦くん』
『えっ?いいの?』
『うん』
僕は紙袋からチョコを2個取り出した。
『1個は冷蔵庫に入れて、あとで食べて。もう1個は僕ら2人で分け合って、今食べよう』
『やったぁ。ありがとう!』
…朝食を食べ終えてから40分ほど経って、僕は帰ることに。
玄関先で忠彦くんは、そのまま帰りかけた僕に、この紙袋を手渡してくれた。
『信吾くん…忘れ物。バレンタインチョコ3個入った紙袋…はい』
…そして、電車に乗っている今…一応、手を入れて紙袋の中を確かめてみる…ちゃんとチョコは3個…あっ!?
《-OASIS- 華丘緋子》
キラキラ輝くラメの入った淡いピンク色の名刺が紙袋の中に…オアシス?忠彦くんが働いてるお店の名刺?
華丘緋子…これが忠彦くんの言ってた《源氏名》ってやつ?
携帯番号と、その下に手書きされたLINE IDを囲うように、黒のボールペンで大きく丸がされてる…。
「ちょっと!…ねぇ見て、あの男の子…ピンクの名刺見ながらニヤニヤしてる…!」
「やだーっ!…たぶん、間違いなくキャバ店オール後の帰りだよ…!」
「あの紙袋の中って…もしかして嬢から貰ったバレンタイン…」
あわわわゎわ!!
僕は慌てふためきながら、名刺を紙袋の中へと急いで戻した。
はぁー。びっくりしたー。それと電車内でちょっと恥かいた…。
でも…忘れ物を渡す際に、そっと自分の名刺を忍ばすとか…勉強になってしまった…。
とても17歳のやることとは思えないけど。
そういえば昨夜…忠彦くんが変なことを言ってたな…。
《信吾くんは、背が小さくていいね…羨ましい》
羨ましい?低身長が?
僕からすると、身長が171cmだっていう忠彦くんのほうが、よっぽど羨ましいと思うけど。
背が低いのを羨ましがられたなんて…初めてだ…。
そして…いろいろ飛ばして1週間後。
今日は2月第3週の土曜日。
午前7時43分。僕はいつもと何も変わらず、アンナさんの美容院に詩織といた。
でも…今日はいつもとは違う…変わるんだ。変な言い方だけど。
今朝の僕は《ある変化》を決心してここ…
『信吾くん、じゃあ金魚に着替えましょうか』
僕は…普段と違って、重々しく頷いた。
2人で特別客室に入る。そして着替える前に…。
『アンナさん。今日はお願いがあります…!』
『…えっ?本当にやっちゃって…いいの?』