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page.156

2月第2週の日曜日。時刻はたぶん…今、9時35分頃のはず。


僕は今、忠彦くん家から電車に乗り帰宅中。いつもと変わらず電車のドアの前に立ち、いつものようにガラス窓から外を眺めている。


今日の天気は午後から雨だって言ってた…忠彦くん家のテレビが。

なるほど…空はどんよりと暗く、今にも降ってきそうだ。







忠彦くん家で食べた朝のトースト。飲み物はホットココア。



『あ…冷蔵庫にプリンが1個ある…食べる?信吾くん』


『えっ、いいの?…ありがとう』



その時ふと《なにかプリンのお返しとかできないかな…あ!チョコは?どうだろう》と考えて、買ったバレンタインチョコの入った白い紙袋を手に取った。



『そういえばその紙袋…何が入ってんの?』


『バレンタインチョコ…食べる?忠彦くん』


『えっ?いいの?』


『うん』



僕は紙袋からチョコを2個取り出した。



『1個は冷蔵庫に入れて、あとで食べて。もう1個は僕ら2人で分け合って、今食べよう』


『やったぁ。ありがとう!』







…朝食を食べ終えてから40分ほど経って、僕は帰ることに。

玄関先で忠彦くんは、そのまま帰りかけた僕に、この紙袋を手渡してくれた。



『信吾くん…忘れ物。バレンタインチョコ3個入った紙袋…はい』



…そして、電車に乗っている今…一応、手を入れて紙袋の中を確かめてみる…ちゃんとチョコは3個…あっ!?



《-OASIS- 華丘緋子》



キラキラ輝くラメの入った淡いピンク色の名刺が紙袋の中に…オアシス?忠彦くんが働いてるお店の名刺?


華丘緋子…これが忠彦くんの言ってた《源氏名》ってやつ?


携帯番号と、その下に手書きされたLINE IDを囲うように、黒のボールペンで大きく丸がされてる…。



「ちょっと!…ねぇ見て、あの男の子…ピンクの名刺見ながらニヤニヤしてる…!」


「やだーっ!…たぶん、間違いなくキャバ店オール後の帰りだよ…!」


「あの紙袋の中って…もしかして嬢から貰ったバレンタイン…」



あわわわゎわ!!

僕は慌てふためきながら、名刺を紙袋の中へと急いで戻した。


はぁー。びっくりしたー。それと電車内でちょっと恥かいた…。


でも…忘れ物を渡す際に、そっと自分の名刺を忍ばすとか…勉強になってしまった…。

とても17歳のやることとは思えないけど。


そういえば昨夜…忠彦くんが変なことを言ってたな…。



《信吾くんは、背が小さくていいね…羨ましい》



羨ましい?低身長が?

僕からすると、身長が171cmだっていう忠彦くんのほうが、よっぽど羨ましいと思うけど。


背が低いのを羨ましがられたなんて…初めてだ…。







そして…いろいろ飛ばして1週間後。

今日は2月第3週の土曜日。

午前7時43分。僕はいつもと何も変わらず、アンナさんの美容院に詩織といた。


でも…今日はいつもとは違う…変わるんだ。変な言い方だけど。

今朝の僕は《ある変化》を決心してここ…美容院クローシュ・ドレに来たんだ…!



『信吾くん、じゃあ金魚に着替えましょうか』



僕は…普段と違って、重々しく頷いた。


2人で特別客室に入る。そして着替える前に…。



『アンナさん。今日はお願いがあります…!』








『…えっ?本当にやっちゃって…いいの?』









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