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page.157

アンナさんが特別客室のドアから顔を覗かせて、向こうの詩織に話し掛ける。



『ねぇ、詩織』


「…あ、はい」


『今日は金魚の準備、いつもより少し時間が掛かるの』


「えっ?どうかしたの!?」


『ううん。大したことじゃないんだけど』


「じゃあ、少し時間が掛かるって…どれくらい?」


『そうね。40分も見ておいてくれれば…』


「40分かぁ…。でもそのあいだ、ノートパソコンでネット見てればやり過ごせるから。大丈夫」


『うん。詩織ごめんね』


「ううん」



…ドアを静かに閉め、アンナさんが戻ってきた。

僕はまだ着替えず、家からの私服のまま、椅子に座っていた。



『…本当にいいのね?』


『はい。お願いします…』



アンナさんは櫛を左手に、ハサミを右手に取った…。







…ガチャッ。

僕は金魚への着替えや準備を全て済ませ、特別客室を…少し不安気に出た。



『…あの…詩織』


『んんー?ちょっと待って…』



僕は、そろりそろりと横移動し、ロングソファーに座る詩織の前に立ってみた。

そしてノートパソコンを凝視していた詩織の視線が、勢いよく振り向いて僕に注がれる。



『えぇっ!?』


『…うん』



僕は遠慮がちに頷いた。



『なんで切っちゃったの!?』


『どうかしら?凄く似合ってて可愛くない?金魚の髪型』



アンナさんも片付けを終えて、特別客室から出てきた。



『見てのとおり、ベースはミディアム寄りのウルフレイヤーのショートよ。金魚オリジナルのヘアスタイルだけど』



アンナさんが僕の横に来て、このヘアカットの説明をしてくれた。



『前髪は少し長めに残して、自然な感じに顔の両サイドへ手櫛で流して分けたの。毛先を少し遊ばせてね。ほら、横を向くと目が隠れるぐらいの長さでしょ?』


『うん』



そして僕の顎にそっと触れ、顔を右へ左へと向かせる。



『…左右の横髪は、外側になる髪の長さは耳が十分隠れる長さを残して…耳は髪を手櫛で分けて見えるように。あと金魚は元々髪の量が多いから、あまりぼわっと膨らみすぎないように、内側となる髪を少しすいて《髪の長さ》よりも《髪の量》の加減を重視したの』


『へーぇ。凄ぉい』



…そして最後に後ろ。



『後ろ髪は、やや長め残しでね。なのに首周りはすっきりしてるって思わない?いいでしょ』


『うん。いい!』



…そしてアンナさんは最後に説明をまとめる。



『この髪型でこだわったのは…短めなんだけど、ボーイッシュには絶対にならないよう気を付けながら、女の子らしい《可愛さ》と《理知的なカッコ良さ》を演出させようって頑張ったところかしら』


『てゆうか、てゆうか…』



ん?詩織が慌てて何か言おうとしてる…?

なんだろう…?









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