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page.158

詩織は、僕の髪型を確かめるかのように、もう一度よく見た。



『アンナさんも金魚も知ってるはずだけど…髪の長いのが今の女の子たちの流行りなのに、ほんとに切って良かったの?その為に今まで伸ばし…』



僕は勢いよくみぎを向いた。左耳たぶにぶら下がっていた金魚ピアス…赤姫と黒助くんが、遠心力に逆らえず振り回された。



『…あ!…ピアス…』



ロングヘアーが女の子らの人気定番…そんなのは僕だって十分解ってる。だかど、その為に犠牲にはさせたくなかった。


僕はこの、見た目が凄く可愛らしい小さな2匹が大好きだから。もっと目立って、僕以上にたくさんの女の子たちに知ってほしいって思ったんだ。だから…。



『けどね詩織、私はカットが済んでから、金魚の判断は考えようによっては正しかったんだって実感したんだけど…どういうことか解る?』


『えっ…うーん…』



詩織は振り向き、軽く腕を組むアンナさんを見た。僕だってアンナさんを見る。



『…金魚は世の中の流行を、後から追い掛けてるようじゃ駄目なんだって気付いたの。自分の理想とするスタイルや、そういった金魚の個性を、人気や話題なんかに左右されず貫く…。それは凄く重要なんだってことを…ね』



『…あっ、そういうことなのね!解ったぁ!』



静かに頷いたアンナさん。



『もっと解り易く言えば…金魚は【瀬ヶ池の嬢傑ヒロイン】になる子よ。だから流行は追い求めるものじゃなくて《流行を金魚自身が作り出し、発信していく》…それが本物の【瀬ヶ池の嬢傑ヒロイン】でしょ…ってね』


『金魚が…流行の発信源になる…ってことだよね?』


『えぇ。そうよ』



詩織が僕を手招きして呼ぶ。



『ねぇ金魚、私の横に来て』



そして手招いたその手で、ロングソファーをぽんぽんと優しく叩く。僕もそれに従い、詩織の隣に座る。



『…わぁ』



詩織の目は確かに僕の、少し短くなった髪をよく見てる。それは上目遣いの詩織の視線が、右に左に泳いでるもんだから解り易かった。



『触ってもいい?』


『うん。いいよ』



詩織も、さっきのアンナさんのように、僕の髪をそっと手櫛で直しながら、撫でるように触れる。



『はぁ…なにこの…凄く可愛い。この髪型…』


『ありがとう』


『あーん。もう…アンナさーん!』



えっ!?

体を揺すって…急に詩織の態度が変わった!?



『この髪型、なんでこんなに可愛いの!?…私もこの髪型したーぁい!』



あ、ちょ……えぇっ!?









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