そして《おばタク》はいつものように、新井早瀬駅の近くで路肩に寄り、停まってくれた。
『お二人さん、ちょっと待っててね…』
『はーい』
『??』
…待っててね…って?
詩織は分かってるみたいだけど…えぇと…?
僕は思い出せない…何だっけ…?
…待つこと約1分。
『…今、鈴ちゃんにLINEしたから、彼女からすぐ電話が掛かってきてくれると思うわ』
鈴ちゃん!?…あーっ!僕も思い出した!!
そうだ!今日は…あの《現役アイドル・有名芸能人》の伊藤鈴ちゃんと直接、電話で話せる日だった!
《~♪~♪》
岡ちゃんのスマホに着信。
『もしもし……はーい。岡ちゃんよー。今、大丈夫なの?……あ、そう?お仕事大変ね……はーい…はーい。じゃあ、ちょっと待って。今代わるわねー。はーい』
そして後部座席の僕へ、自分のスマホを差し出す岡ちゃん。
『金魚ちゃん、鈴ちゃんよ』
…ドキドキ。今人気の有名芸能人と電話で話すなんて…生まれて初めて…。
僕は意を決して…息を呑んで、ゆっくり手を伸ばす…。
『もしもし…あの!私、凄く可愛い鈴ちゃんが、芸能界デビューした時から大好きでした!……えっ?…あ…ごめんなさい。ついつい…いえ…私、詩織と言います…金魚の…友達の…』
ちょーっ!
僕に差し出された電話なのに、先に出たらダメでしょ!詩織!
…っていうね、僕の心の中での叫び…。
『じゃあ…はい。金魚』
やっと岡ちゃんのスマホを手にできた。
『あの…もしもし』
「もしもし。金魚ちゃん?」
『あ…はい。金魚です』
うわぁー!
遂に…電話の向こうには、本物の…!!
あの天使のような鈴ちゃんの顔を思い出す…更にドキドキ…。
「金魚ちゃん、《G.F.アワード》以来ね。お久しぶり」
『あの…お久しぶりって…会っ』
「うん…そうよね。会ったこともないのに、変よね」
『いえ…そんな…』
なんだか…話し方が凄く柔らかいし…今日がまるで初めてじゃないような、親しささえ感じられる。
「私、あなたと直接会って、色々とお話してみたいなぁって思ってる」
『はい。私も…できれば…』
ちょ、直接会って!!…ドキドキドキドキ。
「でもね…金魚ちゃんも知ってるかもだけど…私今ね、全国を旅する番組を担当してるの」
『はい。知ってます』
「だから…すぐに会うってのは無理なのね…ごめんね」
ほんとに優しい…。
鈴ちゃんの人柄や心遣いが、もの凄く伝わってくる…。