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page.163

今の僕の一言に、周りの女の子たちは静まって驚いてる。

詩織だって目を円くして驚いてる。


この髪は僕自身がアンナさんにリクエストした長さだし、カットはアンナさんの手によるもの…だから、本当に凄く良いんだってことぐらい判ってる。


だけど、僕の心の中には小さな天邪鬼が住んでいて、褒められたりすると、それにわざと逆らってみたくなる…ごくたまーに。



『このセミロング寄りのショートレイアーは、枝毛がほんとに酷かったから、ただ毛先を揃えて切っただけなの。みんな…こんな髪型にしたら《男の子みたい!》なーんて言われるから』


「そんな全っ然、言うほど男の子みたくないよねー」

「うん。金魚たんかわいいー」

「ってか《カッコ可愛い》って感じよね!」



枝毛が…。

そんはのはもちろん僕が今考えて、それらしくただ理由付けしただけ。


それを僕の隣で聞いてた詩織は、僕のその発言にどういう目的が隠されてるのかを理解したらしく、普段の表情を取り戻して、ニヤにこ笑顔を見せはじめた。



『そうそう!金魚の言うとおり。それに、金魚みたいな可愛いレイヤーの髪型が瀬ヶ池に流行って増えちゃったら、金魚が少しだけ目立ちにくくなっちゃうし。だからみんな、金魚の真似をして髪を短くなんてしないでよねー』



ここぞとばかりに周りの女の子たちに、牽制するかのように堂々とそう確言を放った詩織。凄くすっきりした表情…心地さそう。


その強気の発言に対し、女の子たちからの反論はひとつも聞こえてこなかった…なんとなくひと安心。


そして僕は急に気になったかのように、ピアス…赤姫と黒助くん…を左手の人差し指で2回、わざとつついて女の子たちに見せる。



「あーっ!!金魚ちゃんの耳に金魚のピアス!?…おっしゃれー」

「ほんとだー!すごーい!」

「あのピアス、今日が初お披露目!?」



…いいえ。実は先週も着けてたよ…。

そして最後に詩織の一言。



『そういうことで。じゃあ私たちは、これから行かなきゃならないところがあるから…ね』



僕も最後に、もう一度確かめるように周りの女の子たちを、ゆっくりと見渡した。



『行こう。金魚。瀬ヶ池の街を軽くひと通り観て廻ったら、それからケーキを買って、ナオさんのお店へ…って忙しいんだから』


『うん』



詩織は『じゃあねー♪』って優雅に女の子たちに小さく手を降り、僕とその場を急ぎ去った。







藤浦市新井区曽東。早瀬ヶ池の北北東方位…新井早瀬駅から徒歩で約13分ほどの距離。ここにナオさんの化粧品店 《BlossoM.》がある。


…って言っても、瀬ヶ池の街を観ながらぶらぶら歩いて、ケーキ屋さんでケーキを買って…イタリアンパスタ屋さんでランチも済ませてきたから…駅から真っ直ぐ来たってわけじゃないけど。



午後1時48分…ゆっくりと自由散歩しながら、ようやくここまで来た。



『ほら金魚!見えてきた…ナオさんのお店!』









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