『…あ、余った5個のケーキは、従業員の皆さんに。どうぞ』
『あら、いいの?ありがとうね』
詩織の勧めで、残ったケーキは店員のお姉さん達に振る舞われた。
…それで、回想の続き…。
まだ続く、ナオさんのナオさんの《丹波彩乃のモデル獲得》の力説に、アンナさんは浮かない表情…詩織も。僕だって…だけど。
対してナオさんは、そんな僕らのそれが、なんだか納得いかなかった様子。
『アンナはそう言うけど、私は《ダメもと》で届出は取り下げないでおく!』
『ナオ…そんな意地にならなくても…』
アンナさんに一歩も譲らないナオさん…。
『だけど!彩乃ちゃんを獲得できなかった場合の次の手も、もう考えてあるんだから!』
『…なに?次の手…って』
ナオさんの瞳がキラリと輝いた。
『彩乃ちゃんを専属モデルとして獲得できなかったときは、代わりに…』
ナオさんが左手を腰に当て、右手の人差し指で真っ直ぐ…僕を指差した…!?
『…金魚ちゃん、あなたがうちのお店の新しい専属モデルになるの!』
『ぇ?…えぇっ!?』
僕は驚き余って、慌ててそれを拒んだ。
『金魚ちゃん、なんで?それは金魚ちゃんが、実は《女装した男の子》だから?』
『い、いえ…違うんです。例えば…えぇと…あ、アンナさんがそれを許してくれるのなら、僕…金魚がナオさんのお店の専属モデルをすることは構わないかも…とは思います。だけど…』
『あの…ナオさん』
『?』
黙って言葉のやり取りを、傍で聞いてたしおりが、堪らなくなって口を挟んだ。
『私は…《G.F.》デビューを待たないまま、先に専属モデルのデビューしちゃった…』
…少し物悲し気に俯く詩織…。
『金魚がナオさんのお店の専属モデルを務めることが、本当にできるのなら私もそれはいいって思うの。でも、私みたいな辛い思いは絶対させたくないの…』
ナオさんも、それを語る詩織を優しく、じっと見守ってる…。
『…やっぱり金魚には、ちゃんと街でスカウトされて《G.F.》のルールに従って…ちゃんと階段を一つ一つ
…また、ナオさんの瞳がキラキラと輝いた。
『ねぇアンナ、あなたは金魚ちゃんが私のお店の専属モデルをやってくれることに…反対はしない?』
ナオさんの表情を見詰めていた僕は、今度はアンナさんのほうも、ふと振り返って見……えっ?
アンナさんの瞳も、何かここに大きなチャンスを
『ふふっ、そうね…。ナオが金魚を専属モデルに欲しいって言うのなら、金魚がそれを断らない限り、別に私は構わない…《ナオの好きにしたら?》って思うけど。ただし条件を一つ…出させてもらうわ!』
『条件?へぇ…いいわ。なんでも言って』
アンナさんは勝利の笑み…みたいにふふふと小さく笑った。
『ナオが金魚を《G.F.デビュー》… "させてくれたら" ね。これが私からの条件よ。ナオ』
…えっ!?
ナオさんが金魚を《G.F.デビュー…させてくれたらね》って…どういうこと!?
意味あり気なアンナさんの一言は…なに!?
ど…どういうこと!?