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page.169

左手に持ったiPhoneを左耳に当て、右手は左の二の腕を軽く掴んだ立ち姿のアンナさん。



『…お、もしもし?ナオ?おはよう』



僕は詩織と見合った。



『…うん…うん。午後1時頃?…PARCO前?…うん…』



も、もしかして…《G.F.》専属モデル、卒業特別視察スタッフ《鵜鷹目》の出没予定情報!?…って、たぶん。



『…ナオ。ちょっと待って。私のお店に6年も前の《G.F.》の冊子なんて、もう無いってば…うん…うん…。ほんとに?…そう。ありがとう。じゃあお願いね…』



そして『ナオ、ありがとう』の言葉を最後に、アンナさんとナオさんとの電話は切れて終わった。



『…アンナさん』


『いい?2人とも。よく聞いてね』


『うん』

『…はい』



僕も詩織も、アンナさんの次の言葉を待って、じっと注視した。



『…今日の午後1時頃、PARCO前の周辺らしいわ。視察員は…6年前の7月刊に《G.F.》デビューした橋本美香ちゃんって子と、5年前の10月刊で《G.F.》デビューした…あら?名前なんて言ってたかしら…ナオ』



モデル卒業視察スタッフの名前?…それは、そんなに重要じゃないって気がする…。


この情報は、ナオさんが妹の松島叶美さんに便宜を図って、更にご機嫌取りまでして、そのうえ新しいバッグをプレゼントまでして、ようやく教えてもらった極秘情報らしい。


…これは、確かに平等公平を欠かす《ルール違反》だ…。

だって瀬ヶ池の女の子たちはみんな、運を頼りに《G.F.》デビューに憧れてるんだから…。



『…んまぁ、とにかくナオが、その2人の写真をLINEで送ってくれるって言ったから、ちょっと待ってて』



アンナさんに《うん》と頷いて、素直に応じる僕と詩織。







…約10分後…。



『…あ、きたわ。ナオからのLINE通知。写真は…この2人らしいわ』


『み…見せてっ!アンナさん!』



慌てて立ち上がる詩織。アンナさんからiPhoneを手渡され、写真に食い入るように凝視していたが、詩織は冷静にアンナさんのLINEから、詩織のLINEへと写真2枚を転送した。



『…これで大丈夫。いつでもこの2人の顔を見直すことができるわ。じゃあ…はい。金魚』



今度は僕が、詩織からアンナさんのiPhoneを手渡された。僕もLINEの写真2枚をじっと見る…。


5、6年前の《G.F.》冊子の女の子紹介のページをそのまま撮って送った…って感じの、少し古く見える添付写真。


…僕も確認終了。



『ナオの《片付け嫌い》が功を奏したわね』


『?』

『?』


『だから…つまりナオのお店ね、2階が商品管理倉庫になってて、3階がナオの自宅になってるんだけど、その2階の奥が数年前から片付けが進まずに手付かずのままなの。もちろん、そこに積み上げられた《G.F.》の冊子もね』



…あぁ。なるほど。


僕は今…5、6年前の《G.F.》冊子を無理に引っ張り脱いだが為に、その積み上げられた《G.F.冊子の塔》が、今まさに勢いよく倒壊する…ってのを、ふと想像した…。









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