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第2話_陽炎の王都

 熱気に包まれた街の広場に、真聖とつむぎは立っていた。

  目の前には、石造りの城壁と白い尖塔が連なる光景。まるで中世の絵画の中に入り込んだような錯覚を覚える。

  「……ここが、王都ルテオラ?」

  つむぎは周囲をきょろきょろと見渡す。

  近くの露店では見たこともない果実や香辛料が並び、異国風の香りが漂っていた。

  通りを歩く人々は布製の長衣を身にまとい、金属製の装飾を光らせている。

  「どうやら俺たちは本当に別の世界に来たらしいな」

  真聖は独り言のようにつぶやく。

  もともと平静な性格だが、今だけは胸の奥にざわめきがあった。

  その時、背後から声が飛んできた。

  「おい、真聖!」

  振り向くと、見慣れた顔――俊介、侑希、雄一、可奈子、拓己、貴子、陽斗、菜穂――残り七人の仲間がいた。

  「みんな……無事だったのか!」

  真聖の声に全員が頷く。

  俊介は髪をぐしゃりとかき上げ、少し不満げに言った。

  「気がついたらここに飛ばされてた。まったく長続きしないバイト辞めた直後だってのに……」

  だが、その目には不屈の光があった。

  侑希は少し距離を取りながらも、淡々と声をかける。

  「怪我はない? あまり人に囲まれるの、得意じゃないけど……みんな元気そうで良かった」

  彼女の声には、他者を支えたいという意志が宿っていた。

  そこへ甲冑の兵士たちが現れ、全員を取り囲んだ。

  「お前たち、王宮へ来てもらう」

  短く言い放つと、兵士は抵抗を許さぬ眼差しを向けた。

  真聖は一瞬だけつむぎと視線を合わせた。

  「……行くしかないな」

  仲間たちもそれに従い、列を組んで歩き出す。

  王都の中心へ進む道は、整然と石畳が敷かれ、道の両側には彫刻が施された建物が並んでいた。

  陽斗は興味深そうに建築を観察していた。

  「この街、設計思想が統一されてる……まるで、最初から戦時を想定して作られてる感じだ」

  菜穂は民衆の表情を見回し、少し眉を寄せる。

  「何か、緊張してる。最近、何かあったんだね」

  やがて視界が開け、巨大な城門が目の前に現れる。

  その向こうに、彼らの運命を左右する王宮が待っていた。



 王宮の中は、外観からは想像できないほど静謐だった。

  白大理石の床は陽光を反射し、天井のステンドグラスから差し込む光が虹色の模様を描いている。

  彼らは兵士に導かれ、玉座の間へと進んだ。

  玉座には王女リアスが座していた。白銀の髪が光を反射し、その瞳は冷たくも真摯な光を帯びている。

  「――よくぞ来た、天降りの客人たちよ」

  リアスの声は澄んでいて、広い空間に響き渡った。

  全員が立ち止まり、息を飲む。

  つむぎが礼を尽くし、深く頭を下げた。

  「私たちは突然こちらへ来てしまいました。状況をご説明いただけませんか」

  リアスは彼女の態度にわずかに微笑を浮かべると、玉座の横に立つ老人を手招きした。

  老人は王宮の学術顧問で、名をフェリドと言った。

  「この王都の地下には、“二重輪(ダブルリング)”と呼ばれる古代機械が眠っておる。最近になり、それが暴走の兆候を示しておるのだ」

  フェリドは長い杖で床を叩きながら続ける。

  「お主らが落ちてきたのは、その影響によるものと考えられる」

  真聖は一歩前に出た。

  「もし俺たちが帰る方法を探すなら、その“輪”を調べる必要がある……ということですか」

  リアスは小さく頷いた。

  「その通りだ。だが輪は王国の命運に関わる存在。よそ者に自由に触らせるわけにはいかぬ」

  彼女は視線を鋭くし、問うた。

  「汝らは王国に協力する意思があるか?」

  つむぎは迷わず答えた。

  「帰るために、そしてここで出会った人々を危険に晒さないために、協力します」

  真聖も静かにうなずく。

  「俺もだ」

  仲間たちもそれぞれ頷いた。

  侑希は視線を逸らしながらも小さく呟く。

  「支えることくらいなら、私にもできる」

  俊介は苦笑しつつも拳を握った。

  「長続きするか分からんけど、やってみるさ」

  こうして九人の意思は一つとなり、異世界での最初の任務が決まった。

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