熱気に包まれた街の広場に、真聖とつむぎは立っていた。
目の前には、石造りの城壁と白い尖塔が連なる光景。まるで中世の絵画の中に入り込んだような錯覚を覚える。
「……ここが、王都ルテオラ?」
つむぎは周囲をきょろきょろと見渡す。
近くの露店では見たこともない果実や香辛料が並び、異国風の香りが漂っていた。
通りを歩く人々は布製の長衣を身にまとい、金属製の装飾を光らせている。
「どうやら俺たちは本当に別の世界に来たらしいな」
真聖は独り言のようにつぶやく。
もともと平静な性格だが、今だけは胸の奥にざわめきがあった。
その時、背後から声が飛んできた。
「おい、真聖!」
振り向くと、見慣れた顔――俊介、侑希、雄一、可奈子、拓己、貴子、陽斗、菜穂――残り七人の仲間がいた。
「みんな……無事だったのか!」
真聖の声に全員が頷く。
俊介は髪をぐしゃりとかき上げ、少し不満げに言った。
「気がついたらここに飛ばされてた。まったく長続きしないバイト辞めた直後だってのに……」
だが、その目には不屈の光があった。
侑希は少し距離を取りながらも、淡々と声をかける。
「怪我はない? あまり人に囲まれるの、得意じゃないけど……みんな元気そうで良かった」
彼女の声には、他者を支えたいという意志が宿っていた。
そこへ甲冑の兵士たちが現れ、全員を取り囲んだ。
「お前たち、王宮へ来てもらう」
短く言い放つと、兵士は抵抗を許さぬ眼差しを向けた。
真聖は一瞬だけつむぎと視線を合わせた。
「……行くしかないな」
仲間たちもそれに従い、列を組んで歩き出す。
王都の中心へ進む道は、整然と石畳が敷かれ、道の両側には彫刻が施された建物が並んでいた。
陽斗は興味深そうに建築を観察していた。
「この街、設計思想が統一されてる……まるで、最初から戦時を想定して作られてる感じだ」
菜穂は民衆の表情を見回し、少し眉を寄せる。
「何か、緊張してる。最近、何かあったんだね」
やがて視界が開け、巨大な城門が目の前に現れる。
その向こうに、彼らの運命を左右する王宮が待っていた。
王宮の中は、外観からは想像できないほど静謐だった。
白大理石の床は陽光を反射し、天井のステンドグラスから差し込む光が虹色の模様を描いている。
彼らは兵士に導かれ、玉座の間へと進んだ。
玉座には王女リアスが座していた。白銀の髪が光を反射し、その瞳は冷たくも真摯な光を帯びている。
「――よくぞ来た、天降りの客人たちよ」
リアスの声は澄んでいて、広い空間に響き渡った。
全員が立ち止まり、息を飲む。
つむぎが礼を尽くし、深く頭を下げた。
「私たちは突然こちらへ来てしまいました。状況をご説明いただけませんか」
リアスは彼女の態度にわずかに微笑を浮かべると、玉座の横に立つ老人を手招きした。
老人は王宮の学術顧問で、名をフェリドと言った。
「この王都の地下には、“二重輪(ダブルリング)”と呼ばれる古代機械が眠っておる。最近になり、それが暴走の兆候を示しておるのだ」
フェリドは長い杖で床を叩きながら続ける。
「お主らが落ちてきたのは、その影響によるものと考えられる」
真聖は一歩前に出た。
「もし俺たちが帰る方法を探すなら、その“輪”を調べる必要がある……ということですか」
リアスは小さく頷いた。
「その通りだ。だが輪は王国の命運に関わる存在。よそ者に自由に触らせるわけにはいかぬ」
彼女は視線を鋭くし、問うた。
「汝らは王国に協力する意思があるか?」
つむぎは迷わず答えた。
「帰るために、そしてここで出会った人々を危険に晒さないために、協力します」
真聖も静かにうなずく。
「俺もだ」
仲間たちもそれぞれ頷いた。
侑希は視線を逸らしながらも小さく呟く。
「支えることくらいなら、私にもできる」
俊介は苦笑しつつも拳を握った。
「長続きするか分からんけど、やってみるさ」
こうして九人の意思は一つとなり、異世界での最初の任務が決まった。