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第3話_王室議政と客人

 翌朝、九人は王宮の議政室に集められた。

  議政室は重厚な扉の奥にあり、壁一面に地図と古文書が飾られている。

  中央には楕円形の大きな会議卓が据えられ、王族や高官たちが座していた。

  王女リアスは正面の席に腰掛け、真剣な眼差しを九人へ向ける。

  「改めて名を聞かせよ」

  真聖が一歩前に出て名乗った。「真聖だ。金融システムのエンジニアをしていた」

  「つむぎ。空手を続けてきた社会人です」

  続いて俊介、侑希、雄一、可奈子、拓己、貴子、陽斗、菜穂が順に名を告げていく。

  議員たちは互いに視線を交わし、何事かを小声で話した。

  リアスは手を上げ、静寂を促す。

  「天降りの者たちよ。汝らの帰還手段を探る代わりに、王国は一つの依頼を課す」

  老人フェリドが立ち上がり、巻物を広げた。

  「王都地下に広がる古代遺跡、その中核に“二重輪(ダブルリング)”が存在する。輪は時空を繋ぐ装置とされておるが、暴走すれば都市が消滅しかねん」

  フェリドは巻物の図面を指差す。「この制御核を安定させねばならぬ」

  真聖は眉をひそめた。

  「つまり、俺たちに調査と制御の協力をしろということですか」

  「その通りだ」リアスは頷く。「この世界の命運がかかっている」

  つむぎは深く一礼した。「お受けします。私たちも帰る方法を探さなければなりませんから」

  真聖も口を開く。「冷静にやれることをやる、それだけだ」

  議員たちはざわめきを見せたが、リアスが一声で鎮めた。

  「ならば契約を結ぶ。調査が終わり次第、帰還手段を探すことを約束しよう」

  その瞬間、九人と王国の運命は一つに結び付いた。

  まだ見ぬ危機、まだ知らぬ試練――それらすべての始まりであった。



 契約の締結はその場で行われた。

  王国の書記官が羊皮紙に記した契約書を持ち込み、真聖とリアスがそれぞれ署名する。

  「これで正式に、王国とおまえたちは協力関係となった」

  リアスは落ち着いた声で告げる。

  契約後、フェリドが一行に近づいた。

  「まずは地下遺跡の第一層だ。長年封鎖されておったが、最近開口部が広がり始めておる」

  フェリドは杖の先で地図を示す。「お主らには調査隊として入ってもらう」

  真聖は淡々と答えた。「必要な情報と装備を用意してくれれば動けます」

  俊介は腕を組み、不満げに口を尖らせた。

  「長続きしないオレにピッタリな危険任務だな……でもやるよ」

  侑希は表情を変えずに頷く。「支援役に徹する」

  雄一は短く「家族より仕事が先か……仕方ないな」と呟きつつも参加を承諾した。

  議政室を出た後、つむぎが真聖に声をかけた。

  「ねえ、本当にやるの?」

  「やるしかない。帰るためにも、ここで生き残るためにも」

  つむぎは小さく笑った。「じゃあ私、前線で頑張る」

  その後、九人は王宮内で休息と装備の受領を済ませた。

  これが、異世界での最初の正式任務――地下遺跡調査――の始まりだった。

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