翌日、調査隊は再び地下遺跡に向かった。
第一層の奥で記録を取り終えた後、さらに深部への通路を開く作業を進めていた。
真聖は照明具を腰にかけ、慎重に壁の紋章をなぞる。
「昨日と同じ鼓動がする。だが今日は……少し強い」
つむぎは剣を抜き、後方警戒に立つ。
「何か来そう?」
「分からない。けど、この鼓動は生き物みたいだ」
その時、背後で金属音が響いた。
振り返ると、小型の魔物――甲羅を持つ四足獣が現れた。
つむぎは即座に踏み込み、鋭い回し蹴りを繰り出した。
「っらぁ!」
魔物は壁に叩きつけられ、動きを止める。
俊介が苦笑した。「相変わらず派手だな」
侑希が駆け寄り、負傷がないか確認する。「……平気?」
「もちろん」つむぎは息を整え、礼を尽くした動作で剣を納めた。
壁画には昨日と同じ環状構造が描かれているが、今日は微弱な光が走っていた。
「共鳴してる……?」
真聖がつぶやく。頭の奥に再び声なき鼓動が響いた。
冷静さを失いかけるが、侑希がそっと声をかける。
「無理しないで。ここはあなた一人で抱え込む場所じゃない」
その言葉に真聖は小さく笑みを返した。
調査は無事終了し、記録を持ち帰ることとなった。
今日一日で、彼らの心には確かな連帯感が芽生え始めていた。
王宮へ戻った調査隊は、採取した資料と映像記録をフェリドに提出した。
老人は目を細め、壁画の写しを見つめる。
「やはり……この二重輪は、時空を繋ぐものに違いない。だが制御核が不安定だ」
フェリドは巻物に記録を追加しながら、真聖に視線を向けた。
「お主、壁に触れた時に何を感じた?」
真聖は少し躊躇し、やがて口を開く。
「脳内に鼓動のような音が響いた。……それと、崩壊の光景が一瞬だけ見えた」
室内の空気が凍りつく。
侑希が眉を寄せる。「それって……危険じゃない?」
「たぶんね。でも、恐怖は不思議と薄かった」
真聖は冷静に答えた。
リアスは黙考し、やがて立ち上がった。
「帰還の道を探るためには、輪を安定させるしかない。汝らの協力は今後ますます重要になる」
その言葉に、全員が静かに頷いた。
夜、宿舎に戻ったつむぎは窓辺に立っていた。
「……戦う相手が魔物じゃなくて、装置の暴走なんてね」
真聖は隣に立ち、淡々と答える。
「でも俺たちは、もうこの世界の一部になりつつある」
つむぎは微笑し、軽く肩を叩いた。「じゃあ、明日も全力でいくわよ」
その夜、仲間たちは疲れを癒やしつつも、不思議な共鳴感を胸に眠りについた。
――異世界での絆は、着実に強まり始めていた。