その夜、王都ルテオラは不穏な影に包まれていた。
月明かりの下、城壁の影を滑るように動く黒い影がいくつもある。
彼らはイェルダ国の工作員――二重輪の制御核を狙う者たちだった。
真聖は宿舎で休んでいたが、不意に耳鳴りを覚えて目を覚ます。
「……この感覚、昨日の鼓動と同じ?」
外から聞こえる小さな金属音に、嫌な予感が走った。
つむぎはすでに剣を手に取り、窓の外を睨んでいる。
「侵入者がいる。行こう!」
その勢いに押され、真聖も立ち上がる。
廊下に出ると俊介が飛び込んできた。
「やっぱりお前らも気づいてたか! 敵だ、複数いる!」
彼は腰の剣を抜き、目をぎらつかせた。
「長続きは苦手だけど、ここは譲れねえ!」
王宮に駆け込むと、制御核保管室の扉がすでに破られていた。
陽斗と菜穂が到着し、周囲の状況を確認する。
「足跡は三人分、奥へ向かってる!」陽斗が分析する。
「私が前に出る!」菜穂が叫んで突進するが、真聖が制止する。
「焦るな、分散されるぞ!」
その直後、暗がりから刃が閃いた。
工作員の一人がアウレオライトと呼ばれる小さな光る結晶を抱えて逃走する。
「待てっ!」
俊介が飛び込み、短剣を交えた。
互いの刃が火花を散らし、俊介は渾身の力で相手を押し返す。
だが敵は煙玉を放ち、視界を奪って闇に消えた。
「くそっ、取り逃がした!」俊介が歯噛みする。
真聖は深呼吸し、冷静に周囲を見渡した。
「これで終わりじゃない。まだ追える手段はあるはずだ」
つむぎが剣を構えたまま頷く。
「このままじゃ終われないね」
制御核が盗まれた影響で、王宮内は緊迫した空気に包まれていた。
衛兵たちが一斉に動員され、侵入経路を封鎖する。
陽斗は城門の地図を広げ、即座に経路分析を開始した。
「西の水路を通った可能性が高い。工作員はこのまま城外に出る気だ」
菜穂は短弓を手に、鋭い声を上げる。「なら私が追う!」
しかし真聖が冷静に制止する。
「一人で行くな。全員で追跡する」
その声に俊介が苦笑する。「しつこいな、お前も……でも賛成だ」
一行は西水路へ走った。
そこは地下へ続く暗渠で、湿った空気と水音が響いている。
可奈子が勢いよく先行し、狭い通路を飛び越える。
「足跡がまだ新しい! 絶対に間に合う!」
だが暗渠の奥で、敵影はすでに舟に乗り込んでいた。
俊介が叫ぶ。「待てぇっ!」
必死に飛び込むも、一歩届かず、舟は川下へと流れていった。
つむぎが歯噛みする。「くそ……取り返せなかった」
真聖は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「焦るな。奴らが逃げた方向は分かった。追跡は可能だ」
夜空に、遠くから警鐘が鳴り響く。
王都は侵入者の影に怯えつつも、彼らを捕えるために動き出していた。