夜襲の翌日、王都は一転して賑わいを取り戻していた。
年に一度の大祭――競駆祭の日が訪れたのだ。
広場には色とりどりの旗がはためき、観客の歓声が響き渡る。
真聖たちは祭りの警備と同時に、昨夜逃した工作員の動きを探る任務を任されていた。
陽斗が観覧席から全体を見渡し、淡々とつぶやく。
「この人混みなら、敵は紛れやすい。だが逆に、動きの不自然さも目立つ」
菜穂は弓を肩にかけ、観客の視線の流れを追っていた。
「不安そうな目をしている人が何人かいる……でも一般客かもしれない」
その時、俊介が通信石に声を飛ばした。
「西側観覧席に怪しい動きあり。黒いフードの集団だ」
可奈子は即座に反応した。「私が先行する!」
勢いよく駆け出すが、真聖が冷静に制止する。
「一人で突っ込むな、連携だ」
レース開始の号砲が鳴り響き、騎獣たちが砂煙を上げて走り出す。
群衆の歓声に紛れて、黒フードの工作員たちが動いた。
陽斗が瞬時に動線を分析し、罠の位置を伝える。
「西出口を封鎖しろ!」
菜穂が前に出て観客を誘導し、混乱を最小限に抑える。
俊介は背後から回り込み、しつこい追撃で一人を取り押さえた。
「逃がすかよ!」
だが、アウレオライトらしき結晶は見つからなかった。
真聖は息を整え、仲間たちを見回す。
「奴らの狙いは別にあるかもしれない。追跡を続けるぞ」
捕らえた工作員は口を割らなかった。
「何も知らねえ。俺はただの観客だ」
俊介は苛立ちを抑え、腕を組む。
「観客が短剣なんて持ち歩くかよ」
真聖は冷静にその様子を見ていた。
「無理に問い詰めても無駄だ。目的はアウレオライトの回収、それだけだ」
陽斗が地図を確認し、指先で一点を示す。
「ここ、西倉庫が怪しい。競駆祭で衛兵の目が薄くなる時間帯だ」
つむぎは即座に剣を抜き、仲間たちを見回した。
「行くしかないね。こういう時こそ礼を尽くして全力でいく」
その言葉に全員がうなずく。
西倉庫に向かうと、そこには扉をこじ開けようとする黒フードの男がいた。
菜穂が弓を引き絞り、鋭く声を飛ばす。「動くな!」
男は驚き、短剣を抜いて突進してきた。
つむぎが一歩踏み込み、足払いで男を地面に倒す。
俊介がすかさず飛びかかり、しつこいほどに拘束した。
「よし、確保!」
だが、倉庫の中にアウレオライトはなかった。
可奈子が勢いよく箱をひっくり返し、悔しそうに叫ぶ。
「やっぱりおとりだったのか!」
真聖は深呼吸し、冷静に状況を整理した。
「敵はまだ別の手を打っている。今日の失敗で終わりじゃない」
その声に、全員が静かにうなずいた。
競駆祭の歓声が遠くで響く中、調査隊は再び追跡の決意を固めた。