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第8話_信義の競駆祭

 夜襲の翌日、王都は一転して賑わいを取り戻していた。

  年に一度の大祭――競駆祭の日が訪れたのだ。

  広場には色とりどりの旗がはためき、観客の歓声が響き渡る。

  真聖たちは祭りの警備と同時に、昨夜逃した工作員の動きを探る任務を任されていた。

  陽斗が観覧席から全体を見渡し、淡々とつぶやく。

  「この人混みなら、敵は紛れやすい。だが逆に、動きの不自然さも目立つ」

  菜穂は弓を肩にかけ、観客の視線の流れを追っていた。

  「不安そうな目をしている人が何人かいる……でも一般客かもしれない」

  その時、俊介が通信石に声を飛ばした。

  「西側観覧席に怪しい動きあり。黒いフードの集団だ」

  可奈子は即座に反応した。「私が先行する!」

  勢いよく駆け出すが、真聖が冷静に制止する。

  「一人で突っ込むな、連携だ」

  レース開始の号砲が鳴り響き、騎獣たちが砂煙を上げて走り出す。

  群衆の歓声に紛れて、黒フードの工作員たちが動いた。

  陽斗が瞬時に動線を分析し、罠の位置を伝える。

  「西出口を封鎖しろ!」

  菜穂が前に出て観客を誘導し、混乱を最小限に抑える。

  俊介は背後から回り込み、しつこい追撃で一人を取り押さえた。

  「逃がすかよ!」

  だが、アウレオライトらしき結晶は見つからなかった。

  真聖は息を整え、仲間たちを見回す。

  「奴らの狙いは別にあるかもしれない。追跡を続けるぞ」



 捕らえた工作員は口を割らなかった。

  「何も知らねえ。俺はただの観客だ」

  俊介は苛立ちを抑え、腕を組む。

  「観客が短剣なんて持ち歩くかよ」

  真聖は冷静にその様子を見ていた。

  「無理に問い詰めても無駄だ。目的はアウレオライトの回収、それだけだ」

  陽斗が地図を確認し、指先で一点を示す。

  「ここ、西倉庫が怪しい。競駆祭で衛兵の目が薄くなる時間帯だ」

  つむぎは即座に剣を抜き、仲間たちを見回した。

  「行くしかないね。こういう時こそ礼を尽くして全力でいく」

  その言葉に全員がうなずく。

  西倉庫に向かうと、そこには扉をこじ開けようとする黒フードの男がいた。

  菜穂が弓を引き絞り、鋭く声を飛ばす。「動くな!」

  男は驚き、短剣を抜いて突進してきた。

  つむぎが一歩踏み込み、足払いで男を地面に倒す。

  俊介がすかさず飛びかかり、しつこいほどに拘束した。

  「よし、確保!」

  だが、倉庫の中にアウレオライトはなかった。

  可奈子が勢いよく箱をひっくり返し、悔しそうに叫ぶ。

  「やっぱりおとりだったのか!」

  真聖は深呼吸し、冷静に状況を整理した。

  「敵はまだ別の手を打っている。今日の失敗で終わりじゃない」

  その声に、全員が静かにうなずいた。

  競駆祭の歓声が遠くで響く中、調査隊は再び追跡の決意を固めた。

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