競駆祭の騒動で、多くの観客が負傷していた。
真聖たちは急遽、王都中央広場に設置された臨時救護所へ向かった。
侑希は医療班の補助役として配置される。
「……感情を表に出すのは苦手。でも支えることはできる」
彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。
傷ついた子どもが泣きじゃくっている。
侑希は表情を変えずに手を伸ばし、止血魔道具を当てた。
「大丈夫、すぐに痛みは消えるから」
声のトーンは淡々としていたが、手つきは丁寧だった。
拓己は資材の在庫を確認していた。
「包帯残り少ない! 誰か補給倉庫に走って!」
すぐに可奈子が勢いよく走り出す。「任せて!」
つむぎは現場の警備を引き受け、周囲を見回していた。
「敵の影はないけど……まだ油断はできないね」
俊介は救護所入口で剣を抜き、警戒を続ける。
「今度こそ逃がさねえぞ」
やがて負傷者の応急処置がひと段落すると、侑希はふと立ち止まった。
泣き止んだ子どもが「ありがとう」と笑顔を見せている。
侑希は戸惑いながらも、小さく微笑んだ。
「……こういうの、悪くない」
その光景を見た真聖は、仲間たちの変化を静かに胸に刻んだ。
異世界に来てからの短い時間で、それぞれが役割を見つけつつある――そう実感したのだった。
負傷者の処置が終わり、救護所には安堵の空気が流れ始めた。
だが侑希はベッドに腰掛けたまま、深く息をついた。
「……やっぱり、私は感情をうまく出せない」
隣で資材整理をしていた拓己が顔を上げる。
「でも、みんな助かったよ。君の手当てのおかげだ」
侑希は少し視線を落とし、淡々と答えた。
「支えることは好き。でも……どう喜べばいいか分からない」
拓己は優しく微笑んだ。
「変化はすぐに分かるよ。君がいて、みんなが安心した」
その時、菜穂が入口から声をかけてきた。
「新しい負傷者だ! 急いで!」
侑希はすぐに立ち上がり、淡々とした動作で患者を受け入れた。
震える手を握り、簡潔に告げる。
「大丈夫、ここにいれば平気だから」
患者は安心したように息を吐き、侑希の肩に手を置いた。
「ありがとう……」
その一言が胸に響き、侑希は一瞬だけ柔らかな表情を見せた。
真聖はその様子を遠くから見つめ、心の中で呟く。
(彼女も変わってきている。俺たちは、この世界で確かに成長しているんだ)
救護所の外では、まだ警鐘の余韻が街に残っていた。
だが仲間たちは確かな絆を持ち、次の行動に備えていた。