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第11話_波長の一致

 反響洞で得た資料をもとに、真聖は王宮研究棟で計算を続けていた。

  机の上には波形を記した羊皮紙と魔導式計算具が散乱している。

  「この周波数パターン……やっぱり、輪の鼓動と同期している」

  侑希がそっと近づき、手にしていた飲み物を差し出す。

  「休憩した方がいいよ」

  真聖は受け取りつつも、まだ思考を止めない。

  「もう少しで解けそうなんだ」

  つむぎが腕を組んで呆れたように笑った。

  「この集中力、ちょっと羨ましいわ」

  「モチベーションに波がないだけだ」真聖はさらりと答えた。

  波形解析が終わると、真聖は全員を呼び集めた。

  「結論から言うと、輪の制御核は特定の波長で安定する。それは人間の心拍にも似ている」

  侑希が少し驚いた表情を見せる。

  「だから私、あのとき心拍に似てるって……」

  「その直感は正しかった」

  陽斗は腕を組んで頷いた。

  「ならば、制御には感情や心理も影響する可能性がある」

  つむぎは拳を握り、「礼を尽くすことも大事ってことね」と言った。

  実験を行うと、輪は一瞬だけ共鳴し、遺跡全体が静かになった。

  「成功だ!」俊介が喜びの声を上げる。

  可奈子も勢いよく両手を上げた。

  「やったじゃん! 私たち、世界を救えるかも!」

  真聖は深呼吸し、冷静に言った。

  「まだ一歩目だ。でも確実に進んでいる」



 波長調整の実験は夜まで続いた。

  真聖は計測器の数値を確認しながら、慎重に調整を進める。

  「少しでもズレると暴走する可能性がある。焦るな」

  侑希は隣でサポートに徹していた。

  「感情の同期……どうすればいいんだろう」

  真聖は答える。

  「難しく考えるな。支える気持ちをそのままぶつけてくれ」

  侑希はしばらく黙ってから、小さく頷いた。

  実験が進むにつれ、遺跡から伝わる鼓動は弱まり、空気が落ち着いていく。

  つむぎは剣を横に置き、微笑んだ。

  「なんか、不思議ね。戦わずに平和を取り戻せるなんて」

  「だが戦いは終わっていない」陽斗が地図を広げた。

  「制御核の完全安定にはまだ別の要素が必要だ」

  俊介は椅子に腰かけて大きく伸びをした。

  「それでも……今日は成果があったな。長続きしないオレでも実感できる」

  可奈子は勢いよく親指を立てた。

  「じゃあ、次も全力ね!」

  真聖は淡々と装置を片付け、最後にみんなへ告げた。

  「今日の成果で、この世界を救う可能性が広がった。明日からはもっと本格的に動くぞ」

  仲間たちは無言で頷き、その瞳に決意の光を宿した。




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