反響洞で得た資料をもとに、真聖は王宮研究棟で計算を続けていた。
机の上には波形を記した羊皮紙と魔導式計算具が散乱している。
「この周波数パターン……やっぱり、輪の鼓動と同期している」
侑希がそっと近づき、手にしていた飲み物を差し出す。
「休憩した方がいいよ」
真聖は受け取りつつも、まだ思考を止めない。
「もう少しで解けそうなんだ」
つむぎが腕を組んで呆れたように笑った。
「この集中力、ちょっと羨ましいわ」
「モチベーションに波がないだけだ」真聖はさらりと答えた。
波形解析が終わると、真聖は全員を呼び集めた。
「結論から言うと、輪の制御核は特定の波長で安定する。それは人間の心拍にも似ている」
侑希が少し驚いた表情を見せる。
「だから私、あのとき心拍に似てるって……」
「その直感は正しかった」
陽斗は腕を組んで頷いた。
「ならば、制御には感情や心理も影響する可能性がある」
つむぎは拳を握り、「礼を尽くすことも大事ってことね」と言った。
実験を行うと、輪は一瞬だけ共鳴し、遺跡全体が静かになった。
「成功だ!」俊介が喜びの声を上げる。
可奈子も勢いよく両手を上げた。
「やったじゃん! 私たち、世界を救えるかも!」
真聖は深呼吸し、冷静に言った。
「まだ一歩目だ。でも確実に進んでいる」
波長調整の実験は夜まで続いた。
真聖は計測器の数値を確認しながら、慎重に調整を進める。
「少しでもズレると暴走する可能性がある。焦るな」
侑希は隣でサポートに徹していた。
「感情の同期……どうすればいいんだろう」
真聖は答える。
「難しく考えるな。支える気持ちをそのままぶつけてくれ」
侑希はしばらく黙ってから、小さく頷いた。
実験が進むにつれ、遺跡から伝わる鼓動は弱まり、空気が落ち着いていく。
つむぎは剣を横に置き、微笑んだ。
「なんか、不思議ね。戦わずに平和を取り戻せるなんて」
「だが戦いは終わっていない」陽斗が地図を広げた。
「制御核の完全安定にはまだ別の要素が必要だ」
俊介は椅子に腰かけて大きく伸びをした。
「それでも……今日は成果があったな。長続きしないオレでも実感できる」
可奈子は勢いよく親指を立てた。
「じゃあ、次も全力ね!」
真聖は淡々と装置を片付け、最後にみんなへ告げた。
「今日の成果で、この世界を救う可能性が広がった。明日からはもっと本格的に動くぞ」
仲間たちは無言で頷き、その瞳に決意の光を宿した。