波長実験の成功から数日後、王都に新たな指令が届いた。
それは前線都市カサルへの使節派遣と、輪の追加調査であった。
雄一は王国参事会に呼ばれ、外交窓口として任命される。
「おまえ、本当にやる気あるのか?」俊介が呆れ顔で問う。
雄一は淡々と書類を整理しながら答えた。
「家族よりも仕事を優先するのは今に始まったことじゃない」
その言葉に場の空気が少し重くなる。
真聖は冷静に口を開いた。
「だが、俺たちは帰還方法を探すために動いている。任務を優先するのは当然だろう」
雄一は短く頷いた。「理解してくれるなら助かる」
その日の夕刻、王女リアスが使節団を激励に訪れた。
「汝らはこの国と未来を背負っておる。期待しているぞ」
つむぎは胸に手を当て、礼を尽くして答えた。
「必ずや使命を果たします」
しかし内心で雄一は複雑だった。
(家族よりも優先する価値が本当にあるのか……?)
彼はそれでも表情を崩さず、決意を胸に秘めたまま部屋を出た。
夜、宿舎で可奈子が話しかけてきた。
「雄一さん、家族のこと……大丈夫?」
雄一は短く答えた。「心配するな。仕事が終われば戻る」
その言葉に可奈子は納得しきれない表情を浮かべたが、何も言わなかった。
翌朝、使節団は前線都市カサルへ向けて出発する。
仲間たちの胸中にはそれぞれの葛藤と、未来への決意が混じり合っていた。
前線都市カサルへ向かう道中、雄一は無言で馬車の窓の外を見つめていた。
荒野に広がる赤土と、時折吹き抜ける乾いた風。
つむぎが隣に腰を下ろし、静かに問いかける。
「……本当にいいの? 家族を置いてまで」
雄一は目を伏せ、しばらく沈黙した。
「仕事が終われば帰るつもりだ。今は国全体が危機にある」
その言葉に、つむぎは小さく息をついた。
「礼を尽くすって、時に家族を犠牲にすることじゃないと思うけど……」
「分かってる。でも俺の選んだ道だ」
会話を聞いていた俊介が苦笑する。
「やっぱりお前、どこまでも自分らしいな。俺なら途中で投げ出してる」
可奈子は勢いよく言葉を挟む。
「そういう生き方、嫌いじゃないけどさ。ちょっと寂しいよね」
その場に沈黙が落ちたが、陽斗が落ち着いた声で口を開いた。
「この道の先にあるのは戦場だ。私情はそこで試されることになる」
雄一は軽く頷き、窓の外に再び目を向けた。
馬車が揺れるたび、胸の奥の迷いがかすかに揺れ動く。
だが雄一はその迷いを押し込み、ただ前を見据えた。
この選択が正しかったのかどうか――答えを出すのは、まだ先のことになる。