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第12話_家族より遠く

 波長実験の成功から数日後、王都に新たな指令が届いた。

  それは前線都市カサルへの使節派遣と、輪の追加調査であった。

  雄一は王国参事会に呼ばれ、外交窓口として任命される。

  「おまえ、本当にやる気あるのか?」俊介が呆れ顔で問う。

  雄一は淡々と書類を整理しながら答えた。

  「家族よりも仕事を優先するのは今に始まったことじゃない」

  その言葉に場の空気が少し重くなる。

  真聖は冷静に口を開いた。

  「だが、俺たちは帰還方法を探すために動いている。任務を優先するのは当然だろう」

  雄一は短く頷いた。「理解してくれるなら助かる」

  その日の夕刻、王女リアスが使節団を激励に訪れた。

  「汝らはこの国と未来を背負っておる。期待しているぞ」

  つむぎは胸に手を当て、礼を尽くして答えた。

  「必ずや使命を果たします」

  しかし内心で雄一は複雑だった。

  (家族よりも優先する価値が本当にあるのか……?)

  彼はそれでも表情を崩さず、決意を胸に秘めたまま部屋を出た。

  夜、宿舎で可奈子が話しかけてきた。

  「雄一さん、家族のこと……大丈夫?」

  雄一は短く答えた。「心配するな。仕事が終われば戻る」

  その言葉に可奈子は納得しきれない表情を浮かべたが、何も言わなかった。

  翌朝、使節団は前線都市カサルへ向けて出発する。

  仲間たちの胸中にはそれぞれの葛藤と、未来への決意が混じり合っていた。



 前線都市カサルへ向かう道中、雄一は無言で馬車の窓の外を見つめていた。

  荒野に広がる赤土と、時折吹き抜ける乾いた風。

  つむぎが隣に腰を下ろし、静かに問いかける。

  「……本当にいいの? 家族を置いてまで」

  雄一は目を伏せ、しばらく沈黙した。

  「仕事が終われば帰るつもりだ。今は国全体が危機にある」

  その言葉に、つむぎは小さく息をついた。

  「礼を尽くすって、時に家族を犠牲にすることじゃないと思うけど……」

  「分かってる。でも俺の選んだ道だ」

  会話を聞いていた俊介が苦笑する。

  「やっぱりお前、どこまでも自分らしいな。俺なら途中で投げ出してる」

  可奈子は勢いよく言葉を挟む。

  「そういう生き方、嫌いじゃないけどさ。ちょっと寂しいよね」

  その場に沈黙が落ちたが、陽斗が落ち着いた声で口を開いた。

  「この道の先にあるのは戦場だ。私情はそこで試されることになる」

  雄一は軽く頷き、窓の外に再び目を向けた。

  馬車が揺れるたび、胸の奥の迷いがかすかに揺れ動く。

  だが雄一はその迷いを押し込み、ただ前を見据えた。

  この選択が正しかったのかどうか――答えを出すのは、まだ先のことになる。

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