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第13話_粘着の視線

 前線都市カサル到着の翌日、真聖は王都から届いた依頼を受けて図書塔を訪れていた。

  この塔には古代の文献や遺物の記録が集められており、二重輪の情報を探るには最適の場所だ。

  出迎えたのは貴子だった。

  彼女は塔の管理補助を担当しており、いつも無表情で資料を抱えている。

  「あなた、真聖……だよね?」

  唐突に名前を呼ばれ、真聖は軽く眉を動かした。

  「そうだが……何か用か?」

  貴子は視線を逸らさずに近づいてくる。

  「あなたの心の動きが気になるの。なぜそんなに冷静でいられるの?」

  唐突な問いに、真聖は一瞬だけ返答を迷った。

  「冷静でいるしかないからだ」

  「本当に? 感情を押し込めてるだけじゃない?」

  貴子の視線は粘着質で、まるで心の奥底まで覗こうとしているかのようだった。

  その後も彼女は資料の整理をしながら、ことあるごとに真聖へ質問を投げかけてくる。

  「過去に何か大きな喪失を経験した?」

  「この世界に来て怖くはなかった?」

  真聖は淡々と答えつつ、内心では苦笑していた。

  (探り過ぎだろ……)

  しかし、貴子が提示した一冊の記録に真聖は息をのむ。

  そこには「二世界間往復門」という言葉が記されていた。

  「これって……帰還の手がかり?」

  貴子はわずかに口角を上げた。

  「あなたの内面だけじゃなく、運命そのものも探り当てられるかもね」



 「二世界間往復門……これは古代の伝承と思われていたものだ」

  真聖はページをめくりながら呟いた。

  そこには二重輪と酷似した環状装置の図が描かれており、注釈には“双方の世界を往還させるための門”と記されていた。

  貴子は資料棚に寄りかかりながら、じっと真聖を観察している。

  「驚かないのね。普通ならもっと感情を露わにする場面でしょ?」

  真聖は淡々と答えた。

  「驚いているさ。でも、感情に呑まれても仕方ない」

  貴子は小さく笑った。

  「やっぱり面白い。あなたの冷静さ、無理して作ってるんじゃないかって思ってたけど……どうやら本物ね」

  「分析されるのは慣れてない」真聖は苦笑する。

  調査を終えると、貴子はさらに踏み込んできた。

  「あなたの過去、もっと知りたいな」

  「それはまた別の機会にしてくれ」

  真聖はやんわりとかわしながら、資料を抱えて塔を後にした。

  外に出ると、昼下がりの光が差し込んでいた。

  (この世界の秘密は、俺たちが想像している以上に深い……)

  真聖は胸中でそう呟き、再び仲間たちのもとへ向かった。

  背後から視線を感じる。

  振り返ると、貴子が塔の入口に立ち、静かにこちらを見ていた。

  その眼差しは、探求心というよりも――執着に近い光を帯びていた。

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