「おい!
お前!」
背後から無遠慮な声がする。
しかし、振り返れば神々しいばかりの青年が立っていた。
「おはようございまする。
第3王子、シャルルダルク様。」
「ほぉ…
俺の名前を知っているか…」
「噂好きの召使い仲間に聞きましてございます。」
「ふん。
どうせ、女好きだの、冷酷だのと、尾ひれが付いておろう…
まぁよい。
薬を渡せ。」
「…これは、咳止めの薬でございます。」
私は言う。
「知っておるが?」
「咳止めとは、本来長く使って良い薬ではございません。
なぜなら、薬には副作用と呼ばれる物があるからでございます。」
私は節目がちに説明する。
「フクサヨウ?
何だそれは?
わかりやすく説明せよ。」
「薬の良い効果を効能ともよびまする。
反対に薬によって人体に害をなすことを副作用と呼ぶのです。」
私は説明する。
「…では、どうすれば良いのだ?」
「1か月経っても咳が良くならなければ、服用を中止すべきかと存じます。」
「分かった…
しかし、その薬を1ヶ月も飲めば…
あるいは…」
シャルルダルク様はおっしゃる。
まぁ、大抵は治るだろう。
私は小青竜湯を処方した。
「シャルルダルク様、貴方様は私の初見によりますれば、水滞の兆しがあるかと思われます。」
「水滞?
そなたは、副作用と言い、変な言葉を使うな…
そんな言葉は俺こそ初見だ。」
「水滞とは、その言葉のごとく水が身体に滞っている状態を指しまする。」
「ほぉ…?」
シャルルダルク様は小青竜湯の粉の入った紙をくしゃりと丸めながら、興味もなさそうに聞き返す。
「シャルルダルク様は冷たい飲み物はお好きでございますか?」
「…あぁ。
風呂上がりには、氷入りの水を飲んでおる。」
「恐らくそのせいで脾胃の機能が低下しておりまする。
この紙に特性の飲み物を書きました。
常温か、少し冷えたぐらいの温度でお飲みくだされば…」
「所詮は小娘であろう…
医師のように俺に命令するつもりか?」
シャルルダルク様はおっしゃる。
「では、その紙は破り捨ててかまいませぬ。
ですが、私の論は正論にございます。」
「ふん。
そなた、名前は?」
「私の名前でございますか…?」
少し面食らってしまった。
召使いの名前など、聞かれるとは思っていなかった。
「マリーナ、でございます。」
「マリーナ…
良き名だ…
また、明日来る。」
そして、シャルルダルク様は去っていった。
どうやら、しばらくはこの紫陽花の園で彼と会う事になりそうだ。
はぁ…
王族などと仲良くして、何になる…?
私は所詮は奴隷の召使い身分なのだ。
そんな事を思いながら、また紫陽花を見た。