sideシャルルダルク
俺がマリーナと別れ、その薬を飲んだ1時間後、やはり咳は出なくなった。
1か月ほど前から悩まされている咳で、幼い頃からたまにかかっていた。
どの医者に相談しても、ヒール草の煎じたものを渡されるだけで、全く効果はなかったのだ。
それが…
マリーナは一体何者なのか…?
いつもは、好みの美女はすぐにこの手に入れるのに、何故かあのマリーナという#女子__おなご__#の清涼感には、手籠めにする気も失せていくような不思議な気分だった。
紫陽花の側に佇む、あの美少女を、気にならないと言えば嘘だろう。
俺は執務をまたハイスピードで終わらせて、風呂に入ろうと思ったが、その時、マリーナからもらったメモを思い出した。
ふと、そのメモを見る。
「誰か!
誰か居らぬか!」
「は、はい、シャルルダルク様!」
家臣のデオスがやって来る。
俺の冷酷非道ぶりは皆の知るところだ。
気に入らぬ奴は島流しでも牢屋でも、第3王子の特権を振りかざしてきた。
デオスはいまだに俺を怖がっている。
「きゅういとりんごとレモンを用意せよ。
あと、包丁とまな板ももて!」
「は、はぁ…?」
「いいから、早くせぬか!」
数分後、持ってきたデオスが俺に尋ねる。
「ど、ど、どうされるのですか…?」
「切るのよ、レモンは輪切り、りんごとキュウイは皮を剥いてざく切り、だ。」
しかし、包丁など扱ったことのない俺は、うまくできない。
「あのぅ…
よろしければ私めが…」
「出来るのか?お主?」
「ははっ!
幼き子供がおりますゆえ…」
デオスは綺麗に皮を剥いていった。
そして、キュウイ、りんご、レモンをビンに入れ清潔な水を注ぐ。
常温か、少し冷えた位…か…
俺は珍しく常温でそれを置いておき、風呂上がりに飲んだ。
「こ、こ、これは、美味い!」
それになんとなく身体に良さそうだな。
次の日、咳は全く出なかった。
それと、汗を相変わらずかいており、トイレにもよく行くようになった。
食欲は朝からは無かったので抜いていたが、その日は腹が鳴って、ペロリと平らげた。
あれだけ虚弱体質であったのが嘘のようだ。
そう、俺は病弱だった。
そのせいで、文武に長けていても、王位継承からは外れざるをえなかった。
まぁ、今となっては、この身分が気楽だが。
俺は朝のうちに執務を適当に済ませ、マリーナの元へ向かった。
しかし、彼女と会うのを心待ちにしている自分に、その時はまだ気づいては居なかった。
彼女は、美しい紫陽花の一部であるかのように、その側に佇んでいた。
花に微笑むその表情に俺はしばし見とれていたのは言わないでおこう。