「マリーナ!」
よく通る低い声がした。
この声はシャルルダルク様…
「おはようございまする。
顔色も良さそうで、何よりでございます。
小青竜湯を処方するのも、あと1週間ほどで良いかと思われまする。」
「ショウセイ…?
あぁ、いつもの薬の事か…」
「御意。」
「昨日飲んだ果物水、アレにはどんな効果があるのだ?
少し、身体が軽いような気がする。」
「アレはデトックスの果物水でございます。」
「で、で、でとっくす?
そなたは変な言葉ばかりを使うな。」
「デトックス、つまり解毒や排毒の意味がございます。
体内には、毒素が溜まっておる場合がございますゆえ、それを果物と水の力で押し流し、排出するのでございます。」
「なるほど。
体内に毒素か…
そのような考え方を初めて知った。
この国では、その考え方は無いが…
マリーナ、そなたどこから来たのだ…?」
「隣国のセイント国から…」
私がそう言おうとした時、女官の悲鳴が上がった。
「誰かぁぁぁあ!
来てたもれ!
嘔吐風邪じゃ!」
私とシャルルダルク様は女官の元に駆けつける。
見ると、嘔吐して倒れる女官が居た。
「これは…!」
私が倒れた女官に触ろうとすると、「やめよ!触れると、嘔吐風邪が移るぞ!」とシャルルダルク様が私を引き寄せた。
「触らねば、診断できませぬ!」
と言ったが、すぐに医者達がやってきて、女官を隔離宮殿に連れていった。
「シャルルダルク様、あの女官はどうなるのですか?」
「嘔吐風邪ならば、中々は治らぬ。
それに、死に至る可能性もある。」
「私を離宮へ連れて行ってくださいませ!」
「ならぬ!」
「何故ですか!?
あの女官を救えるのは、私だけにございます!」
「ならぬ!
そなたは行かせぬ。」
かなり粘って頼み込んだが、シャルルダルク様は首を縦にふらなかった。
私は仕方なく、その離宮に忍び込む事にした。
救える命をみすみす死なせる訳にはいかない。
私は、夜中皆が寝静まった頃、薬箱を持ち離宮に向かっていった。
「止まれ!
そこの女!
ここから先は通せんぞ!」
離宮の門番がいきりたつ。
「聞いておらぬのですか?
私は医者から薬を届けるように言われた娘でございます。」
「…怪しいな…
医者に確認する!」
と言われ、まずい、と思った所で…
「通してやれ…
俺が許可する…」
「シャルルダルク様…
なぜ、ここに…」
「そなたの事だ、どうせ、諦めずに来るだろう、とな。
はぁ…」
シャルルダルク様の呆れた顔を私は初めて見た。
そして、私たちは離宮に通された。
嘔吐風邪と言われ、運ばれた女官は眠っていた。
私は手足を触ってみる。