手足は冷たかった。
「シャルルダルク様。」
「何だ?」
「嘔吐風邪の症状を知っておりますか?」
「あ、あぁ。
高熱と関節痛、そして、酷い吐き気だ。」
「では、この女官は嘔吐風邪にございません。」
「…なぜ、そう言い切れる?」
「この女性の身体は全体的に、特に手足が冷えております。
熱も出ておりませぬ。」
私は寝ている女官の目を開いて粘膜の色を見る。
少し貧血気味か…?
「では、一体何の病なのだ?」
「恐らく…」
その時、女官が目を覚ました。
「貴方方は…!?」
「落ち着いてください。
医者の使いにございます。」
「医者の…?」
「今吐き気はしまするか?」
「少し…」
「その他に悪いところはありませぬか?
もしや、頭痛がするのでは?」
「なぜ、それを!?
そうです、ずっと朝から頭痛がしており…そのうち段々と気持ち悪くなって嘔吐したのです…」
「馬鹿な!
頭痛で吐き気などするものか!」
シャルルダルク様はおっしゃる。
「いいえ、ございますよ。
頭痛と一言で言っても様々な種類があるのでございます。
この女官はおそらく片頭痛というものにございます。
さぁ、この薬を。」
私は、呉茱萸湯という薬を飲ませた。
「あとは暗い部屋でゆっくりと眠るだけです。
明日の朝には治っていましょう。」
そうして、私とシャルルダルク様は離宮を後にした。
「ヘンズツウとは何だ?
初めて聞いたぞ。」
「嘔吐を伴う頭痛にございます。
名前がついて無いだけで、女性の1割ほどは持っている病でございますれば、それほど珍しくはございませぬ。
ただ、あの女官はその病の中でも重い方でございますね。」
私は言った。
「ふむ…」
シャルルダルク様は、何事かを考えているようだ。
「どうしたのでございますか?」
「いいや、なんでもない。」
そして、3日後。
「マリーナとやらは居らぬか?」
女官が私たち召使いの雑魚寝部屋にやってきた。
「はい。
私でございますが…」
「ダーニャ様がお呼びだ。
付いてまいれ。」
その女官は言う。
私がついて行くと、広い豪華な部屋に通された。
そこには、あの片頭痛の女官がベッドに腰掛けていた。
「私は4位の女官ダーニャです。
この度はそなたの薬で助かりました。
お礼に、何か一つ願いを聞いてあげようと思います。
何か申してみよ。」
4位?
よく分からなかったが、私はある事を願い出た。
「良いでしょう。
しかと聞き届けました。
2~3日待たれよ。」
ダーニャ様は血色の良い顔で微笑むと、私の願い出を聞く事を約束してくださった。
その願いとは…