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第8話 口説いておるのか?

「いいえ、こちらこそ、命を助けて貰ったのですから、これぐらいは当たり前です。


今日は、あなたをお誘いに来たのよ。」


ダーニャ様早くおっしゃる。


「お誘い、でございますか?」


私は尋ねる。


「えぇ、明後日の午後に私主催のお茶会がありますのよ。

ぜひ、マリーナも来てちょうだい。」


うーん…

ダーニャ様には申し訳無いが、そう言った場は苦手である。


「いえ、私は…」


「そう言わずにいらっしゃって。

大丈夫、私が主催するものだから、来るのは女官ばかりよ。」


そんなこんなで、私は茶会に行く事になり、ダーニャ様は帰っていった。


しかし…


この格好で行っていいものだろうか…?

いや、たぶん、ドレスが必要だろう。


参ったな…

僅かの給料がドレスに消えて行くとは…


薬部屋にて、ため息をついていると、いつものようにシャルルダルク様がやってきた。


「どうした?

大きなため息を吐いて?」


ドレスが無い、などとは言えない。


「いえ、なんでもありませぬ。


ところで…」


「なんだ?」


「王子様と言うのはずいぶんと暇なのですか?」


「無礼な。

俺は外交や財務も取り扱っているから、忙しいに決まっておろう。」


では、なぜここに毎日来るのか?

とは、なんとなく言えない…


「その調合している薬は?

それは雑草であろう?」


「これはオオバコと言います。

まぁたしかに雑草でございますが、薬にもちゃんとなるのですよ。


この実の中に詰まっている黒い種子を乾燥させたものを、車前子と言います。

車前子は咳止めにもなるのです。」


「ふむ。」


「今オオバコのお茶を入れまする。

お暇でしたら、飲んでいかれませぬか?」


「だから、俺は忙しいのだ。


まぁ、でも飲んでみよう。

あれから、咳も出ずに調子も良いからな。」


私は車前子を煎じて、お茶をつくった。


「ふむ。

不味い。」


「良薬とは口に苦いものでございます。」


「そう思って飲むしかあるまい。」


「シャルルダルク様は冷酷な方だと伺っておりました。」


「優しくは無いな。

何人もの家臣を断罪してきたからな。」


「私には冷酷に見えませぬ。」


「口説いておるのか?」


「口説いてはおりませぬ。

思った事を言っただけです。」


なぜ、口説く、になるのか?

全く…

二つ目の噂は本当のようだ…


"シャルルダルク様は後宮で100人の女に手を出した"


「そうか、残念だ…」


シャルルダルク様は言う。


「…口説いておるのですか?」


「口説いておらぬ。

思った事を言っただけだ。」


私と同じセリフを返すシャルルダルク様。


「………。


あぁ、そろそろ商人が来ますゆえ、私は部屋に戻ります。

では。」




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