「いいえ、こちらこそ、命を助けて貰ったのですから、これぐらいは当たり前です。
今日は、あなたをお誘いに来たのよ。」
ダーニャ様早くおっしゃる。
「お誘い、でございますか?」
私は尋ねる。
「えぇ、明後日の午後に私主催のお茶会がありますのよ。
ぜひ、マリーナも来てちょうだい。」
うーん…
ダーニャ様には申し訳無いが、そう言った場は苦手である。
「いえ、私は…」
「そう言わずにいらっしゃって。
大丈夫、私が主催するものだから、来るのは女官ばかりよ。」
そんなこんなで、私は茶会に行く事になり、ダーニャ様は帰っていった。
しかし…
この格好で行っていいものだろうか…?
いや、たぶん、ドレスが必要だろう。
参ったな…
僅かの給料がドレスに消えて行くとは…
薬部屋にて、ため息をついていると、いつものようにシャルルダルク様がやってきた。
「どうした?
大きなため息を吐いて?」
ドレスが無い、などとは言えない。
「いえ、なんでもありませぬ。
ところで…」
「なんだ?」
「王子様と言うのはずいぶんと暇なのですか?」
「無礼な。
俺は外交や財務も取り扱っているから、忙しいに決まっておろう。」
では、なぜここに毎日来るのか?
とは、なんとなく言えない…
「その調合している薬は?
それは雑草であろう?」
「これはオオバコと言います。
まぁたしかに雑草でございますが、薬にもちゃんとなるのですよ。
この実の中に詰まっている黒い種子を乾燥させたものを、車前子と言います。
車前子は咳止めにもなるのです。」
「ふむ。」
「今オオバコのお茶を入れまする。
お暇でしたら、飲んでいかれませぬか?」
「だから、俺は忙しいのだ。
まぁ、でも飲んでみよう。
あれから、咳も出ずに調子も良いからな。」
私は車前子を煎じて、お茶をつくった。
「ふむ。
不味い。」
「良薬とは口に苦いものでございます。」
「そう思って飲むしかあるまい。」
「シャルルダルク様は冷酷な方だと伺っておりました。」
「優しくは無いな。
何人もの家臣を断罪してきたからな。」
「私には冷酷に見えませぬ。」
「口説いておるのか?」
「口説いてはおりませぬ。
思った事を言っただけです。」
なぜ、口説く、になるのか?
全く…
二つ目の噂は本当のようだ…
"シャルルダルク様は後宮で100人の女に手を出した"
「そうか、残念だ…」
シャルルダルク様は言う。
「…口説いておるのですか?」
「口説いておらぬ。
思った事を言っただけだ。」
私と同じセリフを返すシャルルダルク様。
「………。
あぁ、そろそろ商人が来ますゆえ、私は部屋に戻ります。
では。」