sideシャルルダルク
マリーナは相変わらず薬部屋で忙しそうに行ったり来たりしている。
「マリーナ。」
「は?
あぁ、シャルルダルク様、居ったのですか。」
「無礼すぎるぞ、そなた。」
俺は苦笑いして言う。
「どうしたのですか?」
マリーナは薬を調合しながら尋ねる。
「…明日、俺とデートせぬか?」
「はぁ、デートですね。
えっ!?
デート!?」
マリーナの薬草を調合する手が止まった。
「そなたも後宮ばかりに居っては気が滅入ろう。
気分転換も必要だ。」
適当な後付けして、俺は言う。
「私は召使い、つまり奴隷身分の女でございますよ?
シャルルダルク様の名誉の為にも、デートは出来ませぬ。」
マリーナはキッパリとそう言った。
「では、俺が遊びに行くのに、薬師として付いてまいれ。
それなら、文句あるまい。」
「…しかし…」
マリーナは眉間にシワを寄せて、悩んでいる。
「ついて来なければ、不敬罪として処す。」
どうして、そんな言い方になってしまったのか…
いつもはもっとスマートに色っぽく誘うではないか…
これでは、まるで脅しだ…
俺は頭が真っ白になったが、マリーナは言った。
「分かりました…
お供致しまする…」
その一言で俺の心は救われた。
「そ、そ、そうか。
では、明日紫陽花の前で落ち合おう。」
そして、俺は薬部屋から早々に去っていった。
デート…か…
いや、あくまでもお供だと思っているかもしれぬ…
あいつは少し、いや、かなり鈍い所がある。
まぁ、良い。
俺は珍しく浮かれていた。
しかし、デートなどしたことがなかった。
姫君などは、ベッドに押し倒してしまえばそれで受け入れてくれると思っていたし、実際に今まではそうだった。
こんなことならば、デートの練習でもしておけば良かった…
執務室に帰ると、デオスが居た。
「おかえりなさいませ。
最近は後宮に入り浸りでございますな。
お気に入りの女性でも?」
「…まぁな。
ところでデオス、お主はデートというものをした事があるか?」
「それは、私とて、何度かはありますが…」
「そうか…」
ますます不安になってくる。
一体マリーナは何をすれば喜んでくれるのだろうか???
山に薬草でも取りに行くか?
いや、デートじゃないだろ、それは。
では、演劇などはどうだろうか?
うん、悪くないぞ。
それとも、買い物などはどうだろうか?
どうせ、召使いの給与ではろくな物も持っておるまい。
しかし、マリーナの事だから、施しは嫌だと言いそうだ。
あぁ…
どうすれば…
俺は明日着る服を選び、中々寝付けないままに朝日が昇った。