私は気が重かった。
いくら私が元貴族とは言え、今はただの奴隷身分だ。
それなのに…
第3王子のシャルルダルク様とデート…???
そんな事ができるはずもなく…
しかし、仕方ないので、一張羅の薄黄色のドレスに袖を通した。
「あら、マリーナ。
どこかに行くの?」
雑魚寝部屋の召使い仲間のシャイナが尋ねた。
「薬師として、女官に同行するのよ。」
私はもちろん嘘をつく。
「へぇー?
でも、まさか、その顔で行くんじゃ無いでしょうね?」
シャイナは私の顔をじっと見る。
「変か?」
「お化粧もせずに出かけるのは、その女官様に失礼に当たるわよ。」
化粧か…
そういえば、添加物を顔に塗るのが嫌で、転生前からあまりしたことが無いな…
「私がやってあげるわ!
それと…
髪も結いましょう!」
私はいいと断ろうとしたが、もうすでにシャイナは化粧水を私の肌にはたいている。
白粉を塗り、桃の紅を引き、嫌がる私のために、薄めに化粧してくれた。
さらに、髪も結いあげて、シャイナは仕上げに金の花のかんざしを差してくれた。
こんなに気合いを入れたら、引かれるのでは無かろうか…?
そうは思ったが、もう時間もないので、そのまま紫陽花の前に向かった。
シャルルダルク様は真っ白に金色の縁取りを施した洋服で、いつも下ろしている金髪はオールバック気味にセットしている。
鮮やかなミッドナイトブルーの瞳と白の洋服はとても似合っていた。
私はドレスを僅かに持ち上げ、「お待たせしました」と礼をする。
「おぉ、やっ…」
シャルルダルク様は、しかし、言葉を失ったように私を見つめた。
「へ、へ、変でございますか!?」
やはり、化粧やら髪結いやら、やり過ぎたのだろうか?
「いや。
今日のそなたは、紫陽花よりも美しい。」
シャルルダルク様は私の手を取りキスを落とした。
「あ、ありがとうございまする…」
私は少し横を向いて、照れ隠ししながらそう答えた。
シャルルダルク様は、私を馬車までエスコートし、王族専用の豪華な馬車に乗った。
「今日はどこに行かれるのですか?」
「王都にて、花祭りがあっておる。
行ってみぬか?」
「それは…良いですね!」
花祭り…か…
ベルゼ様ともよく祭りに行っていたな…
一体私の何が悪かったのだろうか?
ベルゼ様はリリアに走った。
やはり、私に女としての魅力が無かった…?
「…リーナ。
マリーナ、聞いておるのか?」
「あ、はい!
すいませぬ、ちょっとぼーっとしておりました!」
「?
もうすぐ着くぞ。」
そして、王都の花祭りのメインロードに着いた。