sideシャルルダルク
花祭りは賑やかだった。
人混みに揉まれながら色んな出店を見た俺たちは食花の飴を歩きながら舐め、食花のケーキを喫茶店で食べたりした。
彼女は道の脇に咲き誇る花々を見て嬉しそうに笑い、その笑顔に釣られて俺も笑っていた。
こんなにも楽しいのは、いつぶりだろうか…
いいや、初めてかもしれぬ…
「シャルルダルク様!
花色のシャボン玉が売っておりますわ!」
「あら、あの花柄の小皿、売り物かしら?」
「シャルルダルク様、この花綺麗でございますね!」
彼女は、コロコロと表情を変えて、俺の洋服の袖を引っ張った。
全く計算しておるのか、天然なのか…
「て、て、手を…」
「?
手がどうかしたのですか?」
「だから!手を繋がぬか?
ほら、はぐれたらいかぬだろう?」
「そ、そ、そうでございますね。
はぐれたら…」
俺は彼女の手を取った。
彼女の手は柔らかく温かかった。
そして、俺はアクセサリー店で足を止めた。
あるかんざしを彼女に買ってあげるためだ。
「マリーナ、コレを…」
それは、ピンクのチューリップから透明なクリスタルのさざれ石が付いた可愛らしいかんざしだった。
「いけませぬ。
このように高いものは…」
「そなたに咳を治してもらった、俺の気持ちよ。
要らぬなら、後で捨てても構わぬ。」
こう言った俺の気持ちにマリーナは気づいただろうか?
チューリップの花言葉は『愛の告白』。
薬草の知識に長けた彼女が知らぬはずは無いだろう…
彼女は、そのかんざしを受け取ってくれた。
その時!
「誰か!?
誰か医者はおりませぬか!?」
そんな女性の悲鳴に似た声が聞こえた。
俺とマリーナは顔を見合わせる。
「どうしたのですか!?
私は薬師です!」
そこには、顔色悪くゼーゼーと呼吸する中年の男がいた。
「先ほどから持病の喘息が…」
「落ち着いてくだされ!
まだ、唇に色がありまする!
チアノーゼにはなっておりませぬ!
シャルルダルク様、馬車から私の薬箱を至急!」
「分かった!」
俺は馬車に走り薬箱をマリーナに全速力で届けた。
「えーと、麻杏甘石湯はどこじゃ!
あった!
コレを無理矢理にでも飲ませてくだされ!」
半ば無理矢理に男に飲ませると、段々と男の喘息は落ち着き、20分後にはほとんど穏やかになった。
「ありがとうございます!
あなたは夫の命の恩人でございます!
お礼を…!」
夫人は言う。
「いえ、要りませぬゆえ。
帰ったら念のため医師に診てもらってくだされ。
では。」
マリーナはにこやかにそう言うと、その場を離れた。
その後、俺たちはなんとなく帰る雰囲気になり、馬車に乗った。