帰りの馬車の中、私は考えていた。
シャルルダルク様が買ってくださったかんざしには、どのような意味があるのかと…
チューリップ。
特にピンクや赤は、『愛の告白』という花言葉で知られている。
しかし、目の前のこの美青年が私に好意を抱くはずは…
それに…
花言葉の意味すら知らないであろう…
全ては私の勘違いと言うわけだ。
なんだ…
今の私は奴隷であり、召使いなのだ、何処の王子が奴隷に求愛しようか?
少し考えれば、わかることだ。
後宮に着き、私はシャルルダルク様にお礼を言って、召使いの雑魚寝部屋に帰っていった。
帰ると、召使い達を取り締まる女官が私に言った。
「お前は、召使い・中に格上げされました。
ついておいで。
新しい部屋に案内しましょう。」
え、召使い・中だと?
私が不思議に思いながら、着いていくと、3人部屋に通された。
雑魚寝部屋とは違い、ベッドが3つあり、簡素だが机と椅子もそれぞれ3つある。
「同室は、セリーヌとフィーネだ。
仲良くやるのだぞ。」
そして、女官は去っていった。
「あなたぁ、新入りねぇ?」
召使いにしては、派手な美人がそう言った。
化粧を薄くしているのか…
色白さが目立つ美人だった。
「マリーナと申します。
よろしくお願い申し上げます。」
丁寧に挨拶すると、彼女は言った。
「私はセリーヌよ。
だけどぉ、変ねぇ。」
「変、とは…?」
「普通はどんなに勤勉に働いていても、召使い・下から中に上がるのは、一年ほどはかかるのよ。
でも、あなた、まだ入って3ヶ月目ですってぇ?」
「…恵まれました。」
私は薬の事はいわずに、そう言った。
「まぁ、いいわ…
私はあなたの事まだ認めて居ないからぁ。
あなたのベッドはそっちのよ。
迷惑かけないでね。」
そして、セリーヌは鏡台に向かって化粧直しをし始めた。
ふぅ…
どうやら、歓迎されて居ないようだ。
もう1人のフィーネはどうなのだろうか?
しばらくすると、フィーネが帰ってきた。
ボブカットの小動物系の可愛らしい少女だった。
「あー。
新入りさんだー!
私フィーネ。
よろしくねぇー!」
「よろしくお願いしまする。
マリーナでございます。」
こちらのフィーネとはなんとか上手くやれそうだ。
そうして、私の召使い・中としての毎日が始まろうとしていた。
召使い・中と下では、主に役割が違ってくる。
下は、掃除や洗濯物などの雑用。
中は、主に料理や裁縫などの雑用。
上は、女官の世話全般。
である。
なお、上でも、中でも、下でも、仕事が終われば自由時間となり、本を読んだり、字を書いたりと、割と何でもできた。