sideレガット
兄上の事が大嫌いだった。
兄上は、見た目の美しさに加えて、長けた才能、そして病弱であった事から、父と母の愛情を独り占めしてきた。
オレだって、金髪の髪にアイスグリーンの瞳。
何が違うんだ?
しかし、オレの好きになった後宮の女もご令嬢も、みんな兄を好きだと、俺を袖にした。
大嫌いだった。
ところが、最近になって変な噂を耳にした。
兄上が後宮のどこかに入り浸っている、と。
珍しいな、と思った。
兄上はモテるが、後宮は苦手な筈だった。
そして、俺は召使いに聞き込み、兄上が入り浸っているという薬部屋を割り当てた。
そこに居たのは、ブラウンアッシュの髪を雑にまとめて、ローズクォーツのような桃の瞳をした、小柄な少女だった。
確かに美しいが、兄上の好みでは無いはずだ。
長身の兄は自分に見劣りしない、長身の女を好んでいたからだ。
しかし、薬部屋でその少女と話す兄は見たこともないような優しげな瞳だった。
オレは、その時…
この女を奪えば、兄上がどんな顔をするのか?と、そんな事を思った。
少女は噂に違わぬ腕で、母上の病を治してしまった。
次の日、兄上よりも先にマリーナの薬部屋を訪ねた。
「レガット様。
どうされたのですか?」
「あぁ…
この度は母上を助けてもらい、感謝している。
そして、その礼がしたいと思ったのだ。」
オレは言う。
「礼はすでに、お母上様からいただいておりますゆえ。」
マリーナは薬箪笥をさして言った。
「それとは別のオレの礼よ。」
「はぁ…」
マリーナは不審そうな顔をする。
「どうだ、一緒にオペラを見に行かぬか?」
「は?
いえ…
私など奴隷身分でございますゆえ…
レガット様の名誉に傷が付きまする…」
「オレが良いと言っているのだ。
18日の夜7時に迎えにいく。」
強引にそう言い、オレは薬部屋を後にした。
オペラの個室で、押し倒して仕舞えば良い。
その時はそう思っていた。
オレはにんまりとして、メイス城に帰った。
この事を兄上が知ったならば、さて、どう出るか?
今までの恨み返してくれるわ!
マリーナをオレがもしも口説き落としたら…
きっと兄上は激昂するに違いない…
そして、用が済んだら、マリーナを無様に捨ててやるのだ。
今までにオレがどんな思いで美しい姫君を諦めてきたのか、思い知るがいい!
そして、その日農産物の書類に目を通していると、兄上から呼び出された。
ふん!
オレがマリーナをオペラに誘った事を知ったか…
今頃慌てても遅いのよ!
マリーナはオレがいただく!